言うまでもなく、北朝鮮は金正恩総書記による絶対的独裁国家だ。したがって、同氏の発言は何をおいても必ず実行せねばならない。しかも、米韓との攻防が続く中、軍事面ではメンツがあるため、これまで米韓による軍事演習や日米韓の共同訓練が行われるたびに、威嚇するように打ち上げ実験と称し、数々のミサイルを発射してきた。
ところが10月に予告していた3回目の軍事偵察衛星が打ち上げられなかったことで、さまざまな憶測が広がっている。韓国在住のジャーナリストが説明する。
「北朝鮮は今年の5月と8月に、北西部にあるソヘ衛星発射場から軍事偵察衛星を打ち上げたものの、ともに失敗。10月中に3回目の打ち上げを断行すると発表していました。しかし発射場周辺では10月に入ってもその兆候は見られず、結局打ち上げは行われなかった。時期を明らかにして実行しないなど、本来メンツを重視する北朝鮮ではありえないこと。韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が『ミサイル工業節』に制定した11月18日に打ち上げるとの可能性を示唆していますが、さらに先送りされるのではないかという情報もあり、その裏にはプーチン大統領の目論みがあるのではないのかと見られているのです」
正恩氏がロシアを訪問しプーチン氏と首脳会談したのは、前回の打ち上げ失敗後、9月のこと。2人は宇宙基地で会談することになるが、あえてプーチン氏がその場所を選んだ理由は、自分たちが持つ宇宙開発能力を正恩氏に見せつけることにより、なんとしてもこの技術が欲しいと思わせるための意図があったとされる。
「つまりプーチン氏は、武器弾薬の供給を契機に両者の関係が深まれば、衛星発射についても協力できることをアピールしたかった。正恩氏としても、将来的な宇宙開発は是が非でも実現させたいプロジェクトで、ロシアとの関係強化を進めて将来的な衛星の共同開発まで視野に入れていると思われる。そうなれば、安全保障上の枠組みにある日米韓だけでなく、西側にとって大きな脅威になることは間違いないでしょうね」(同)
つまり、プーチン氏の狙いは、2度における衛星打ち上げ失敗で、今度こそメンツを保ちたいとの思いに駆られる正恩氏の足元を見た外交戦略で、それに正恩氏がうまく乗せられたという見方も出来る。そして、3回目の失敗は許されない正恩氏は、ロシアとの技術的ギャップを目の当たりにして、さらに打ち上げを先送りする可能性もあるというわけだ。
「北朝鮮としても、両国の関係強化を習近平氏に見せつけ、中国をうまく巻き込んでいきたいとの思いがありますからね。今後もロシアとの関係強化を押し出しながら、積極的に中国へアプローチしていくことが考えられます」(同)
2021年から「国防5カ年計画」を掲げてきた北朝鮮にとって、今年は折り返し地点になる重要な年。次回はなんとしても偵察衛星の打ち上げを成功させたい金正恩総書記の、不気味な沈黙が意味するものとは…。
(灯倫太郎)