21日に始まった米韓両軍による合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムシールド(自由の盾)」に合わせるかのように、北朝鮮の金正恩総書記が海軍の艦隊を訪問、「戦略巡航ミサイル」の発射訓練を視察した、と国営・朝鮮中央通信が伝えた。
同通信によれば、ミサイルは「寸分の誤差もなく目標に命中した」とされ、金氏はその攻撃能力を高く評価。有事の際には北朝鮮の主権と安全を死守するため、海軍が担う使命と任務は重大であると強調し、兵士らの士気を高めたと伝えられている。
これまでにも、米韓軍事演習の際には威嚇措置として相当数のミサイルを射ち放ってきた金氏だが、一方でミサイル開発に国家予算をつぎ込むばかりに、国内の食糧事情が悪化。韓国の情報機関・国家情報院(国情院)の発表によれば、北朝鮮では今年1〜7月の餓死者が直近5年間の平均より2倍以上多くなったという調査結果もあり、国民のフラストレーションも沸点に達しているといわれる。
そこで北朝鮮当局は、各地域において党傘下に不平分子を捜し出す非常設のタスクフォースを新設。金正恩政権に反抗的な態度をとる不安分子の洗い出し強化に乗り出したというのだ。
「17日の国情院でこれらの情報を伝えた、韓国与党『国民の力』の幹事・劉相凡議員によると、現政権に対し不満を漏らしたり抗議を行っているのは、90年代半ば以降に生まれた『チャンマダン(市場)世代』と呼ばれる層で、彼らの取り締まりがタスクフォースに課せられた最大任務。密告社会の北朝鮮で政権批判が行われること自体、信じられないかもしれませんが、それだけ国民が切羽詰まった状況にあるということ。いつ爆発してもおかしくありません」(北朝鮮情勢に詳しいジャーナリスト)
そんな折も折、韓国の新聞社「東亜日報」が19日、「平壌郊外で爆発物テロがあった」との衝撃情報を報じたのだ。
報道によれば、爆発物テロが発生したとされるのは1〜2カ月前。場所は特定できないが平壌郊外で、同紙に証言した消息筋によると「轟音と人々の悲鳴が聞こえ、死傷者も出た」という。軍高官を狙ったテロの可能性もあることから、北朝鮮では爆発物探知装置を輸入するなど、「以前にも増して金総書記の警護が強化されている」との談話を伝えている。
「東亜日報の報道に対し、18日の段階で国情院は『爆弾テロ発生は把握されていない』としながら『動きを追っている』と含みを持たせるコメントを発表しています。というのも、今回のテロ事案はともかく、近年北朝鮮では食糧難による略奪行為などもあり、凶悪犯罪が急増しているのです。組織化した集団が、物資強奪を狙って手製爆弾を投げ込む事件も複数発生。そういった連中がチャンマダン世代と結びついて暴徒化し、政権に刃を向けてくる可能性も否定できません。北朝鮮当局が新設したタスクフォースで不満分子をあぶり出すといいますが、今後さらに監視強化と粛清の嵐が吹き荒れることは間違いないでしょう」(同)
「主権と安全を守る」が名目のミサイル開発が引き起こす飢餓と犯罪、そして始まるであろう監視と粛清に国民の苦悩は募るばかりだ。
(灯倫太郎)