─この2大国に挟まれた日本はどう振る舞うべきでしょう?
池上 やはり、日本の発展のためには中国はなくてはならない存在です。今後も経済的なつながりは続きますよね。
─中国は習近平国家主席(69)の長期政権がまだ続くのでしょうか?
池上 はい。昨年秋の中国共産党大会では常務委員の中に5年後に習近平にとって代わってトップになる人が選ばれませんでした。かつて、胡錦濤も10年間国家主席を続けましたが、2期目に習近平と李克強を共産党の常務委員に入れ、2人を競わせました。ところが、習近平は3期目も後継者を選ばなかった。つまり、次の4期目も狙っているということです。
─一方、アメリカはトランプ前大統領(76)がニューヨーク州の大陪審に起訴されるなど前代未聞の事態です。しかも、大統領選に有利になるというから二度ビックリしました。
池上 普通は、女優に口止め料を払ったというだけで眉をひそめるわけです。ところが、トランプの熱烈な支持者は、起訴は民主党の陰謀だという話に乗ってしまうのです。
この裁判は来年の大統領選挙中も、だらだらと長引きます。つまり、選挙中もトランプが話題を独占することになり、トランプが共和党の大統領候補になる可能性は高まりました。とはいえ、無党派層にとってはやっぱり顰蹙ものですよね。逆に、大統領になる確率は一段と下がったと見ています。
─現状の日本は「新しい戦前」にあるとも言われていますが、池上さんはどうお考えでしょうか?
池上 第二次世界大戦後の冷戦では、ソ連と米国の大国が東西で分かれ、資本主義国と社会主義国の間で仲間となる国を取り合う陣取り合戦が行われました。これに対し、現在は「一帯一路」戦略を掲げる習近平主席が、かつての漢民族の帝国の復活を狙い領土を取り戻し、新しい帝国主義を目指しています。そして、これを阻止に回るアメリカとの間で新冷戦の時代を迎えているわけです。
その狭間に立つ日本が、必要以上に台湾有事などと言えば、中国をいたずらに刺激することになります。台湾有事だと騒ぐことによって、ますます台湾の人たちがおびえて、反対に中国の思うつぼになる危険性が極めて高くなる。そのことを自覚しなければいけないと思います。
もちろん、あらゆることを想定し、準備することは必要ですが、あまりバタバタと慌てる必要もありません。それまでじっくりといろんな想定をして対策をとることが求められているのだと思います。
─情報に踊らされず、冷静に対処することが肝心なのですね。今日は勉強になりました。ありがとうございます。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。1973年にNHK入局。現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍するほか、名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授として教鞭をとる。近著に「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)がある。
*週刊アサヒ芸能5月18日号掲載