習近平中国、二つの指標で「落日」露わ 「富む前に老いる」が大問題

 中国の旧正月「春節」を目前に控えた1月17日、中国国家統計局が中国の「未来を暗示」する極めて重要な二つの指標を明らかにした。

 一つは中国大陸の総人口が14億1175万人と61年ぶりに減少に転じたこと。二つ目は22年の実質経済成長率が政府目標の「5.5%」を大幅に下回る「3.0%」と、1976年以来の低水準に終わったことだ。これに中国の「転換点」を見ることができる。
 
 なぜ転換点になるのか、問題を紐解いてみよう。
 
 中国経済は約40年、武漢でコロナが発生する前まで、少なくとも2018年頃まではひたすら経済成長の道を歩んできた。これを可能にしたのが“流れる水”に例えられたほど豊富で安い労働力だった。
 
 1980〜90年代、経済解放区の沿岸部都市の駅前広場には職を求める出稼ぎ労働者が日々10万人単位で降り立った。その多くは10〜20代の若い世代や幼子を親に預けた若い夫婦だった。
 
 安価な労働力は先進国の企業とって最大の魅力となり、世界中の企業が中国に工場を求めた。その巨大な資本の移転により中国は瞬く間に「世界の工場」に変貌し、経済は年率8〜9%ペースで成長した。
 
 その一方、中国は食糧不足の懸念から1980年前後に、夫婦が育てられるのは一人だけという世界に類を見ない「一人っ子政策」を導入した。
 
 当時、中国の地方に行くと「棄嬰是犯罪」(嬰児遺棄は犯罪)というスローガンが目についた。裏返せば、一人しか子を持てないなら、後継ぎになる男だけ育てようと、女児の間引きが行われていた証である。
 
 その結果、出生比率は女児100に対し男児が117と男が余る構成になり、これがのちのち男性の結婚難、性犯罪の多発、少子化など社会の歪みに繋がっていく。
 
 人口減で、最も大きな問題は労働力の減少である。製造大国の地位が揺らぐことになるからだ。
 
 中国では1963〜1975年生まれは各年の出生人口が2000万人を超える、日本でいう団塊世代である。63年生まれの男性は2023年に法定退職年齢の60歳(女性は55歳)に達するので、これから10年以上は大量退職が起こることになる。
 
 一方で、労働力として新規参入する若者は退職者の半分に満たない。すると生産年齢人口は、今後10年で少なくとも6700万人は減少する計算になるのだ。
 
 しかも、労働力と期待された若者は「一人っ子」で幼少期から過保護に育てられてきたため、大学や企業の成果主義になじめない者も多い。それでも就職できればまだいいほうで、厳しい受験や就職競争を避け、日雇いの仕事をしながら最低限の暮らしを送る「寝そべり主義」の若者が増えて社会問題化している。
 
 さらに問題なのが、高齢化が止まらないことだ。60歳以上の人口比率は19.8%と急増しており、「未富先老」(富む前に老いる)が大問題になっている。加えて、人民解放軍を志望する強健な若者が減少し、昨年末には退役軍人で構成する予備役を有事の際に戦線に送れるよう法改正したほどだ。
 
 労働資源の減少で中国が大きく変貌するのが目に見える。

(団勇人/ジャーナリスト)

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