今年10月、旧ソ連の国で構成される独立国家共同体(CIS)の会議で、カザフスタンを訪れたプーチン大統領は、記者会見で兵士の追加動員について問われ「その計画はない」、軍の装備不足についても「問題は解決に向かっている」と強気の姿勢を見せていた。ところがその発言とは裏腹に、ロシア国内では志願兵募集のキャンペーンが激化しているようだ。
ロシア問題に詳しいジャーナリストが説明する。
「ロシアの町中に備え付けられているスピーカーは、もともと祝日などに国民を鼓舞する音楽を流したりしていたのですが、ウクライナ侵攻後は連日、18〜60歳男性に向けて兵士募集が呼びかけられています。当初、ロシア政府が約束していた報酬は19万5000ルーブル(約36万円)からというのが相場だったようですが、政府当局は給与を月額24万7700ルーブル(約45万円)に引き上げ、飛行機や戦車を破壊した場合のボーナスも加えたとBBCは報じています」
しかし実態は極めて怪しいもので、その証拠にロシアの独立系ニュースサイト「ザ・インサイダー」は11月2日、動員された兵士への報酬の支払いが滞り、ロシアのウリヤノフスク州の訓練センターでは、100人以上がストライキを行ったと報道。また「モスクワ・タイムズ」と、ロシアの独立系ニュースメディア「ソタ」も、徴兵された人々の一部が訓練への参加を拒否し、訓練センターは武器庫を閉鎖したと伝えている。
「民間軍事会社のワグネルなどは、現在も国内の刑務所を訪れ受刑者に自由と金銭をちらつかせて入隊させようと躍起になっているようですが、それでも人材不足は否めない。奥の手として当局が考案したのが、志願者募集のビデオ・キャンペーンだったようです」(同)
このキャンペーンを報じたCNNによれば、軍の宣伝ビデオがSNS上にアップされ始めたのは数日前のこと。14日に投稿されたビデオには、若い男性と男友達が登場。パーティーをする代わりに入隊を決め、その報酬で車を購入して周囲を驚かせるというストーリーだった。翌15日のものは、入隊を決意した兵士の勇気に感動した元恋人が復縁を願うというという内容で、他にも工場勤務に見切りをつけ、前線へ出る契約を結ぶ中年男性を描いたものなどもある。
「ビデオの多くは男性たちに『ウォッカと貧困、絶望の日々から抜け出そう』と呼び掛けていますが、たしかに戦場という非日常の世界へ行けば一時的には『ウォッカと貧困』からは解放されるでしょう。ですが、車を買うために軍と契約したり、入隊を決意したから元カノと復縁できるという発想はあまりにも短絡的。こんな低レベルのビデオを大真面目に作ることじたい、プーチン政権が危機にある証拠です。これで志願兵が集まると考えているとすれば、もはや言葉を失いますね」(同)
さて、キャンペーン効果のほどはいかに。
(灯倫太郎)