目下、日米の野球ファンが固唾をのんで見守っているのが、2人の選手の記録達成だ。日本はヤクルトスワローズの村上宗隆で、王貞治さんのシーズン55本塁打を抜いて、バレンティンの60本の記録にどこまで迫れるか、そして3冠王の達成はなるか。米メジャーリーグは、ニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジで、こちらは新記録の61本塁打を達成後にどこまで記録を伸ばせるか、そしてやはり3冠王の獲得なるかだ。
共に歴史的な瞬間が日ごとに続いているわけで、野球ファンなら中継を見逃せない日々なのだが、もともとテレビの多チャンネル化が進んでいるアメリカでは、動画配信サービスがスポーツ中継の世界に大きく乗り出しており、見たい試合を見るためには複数の中継サービスを組み合わせて、時には会員となってお金を払わねばならないとあって、事情は複雑なようだ。
「もともと日本では馴染みがなくて理解しにくいのですが、アメリカのメジャーリーグ観戦ではローカル放送が大半で、それ以外は全米ネットワークを見るという組み合わせでした。ジャッジのヤンキースの試合なら、地元のヤンキースタジアムで行われるホームの試合はローカルケーブル局のYESを見て、それ以外は放送サービスを探すことになります。ところが07年に、ケーブル外の試合をパッケージにした放映を衛星放送のディレクTVが独占契約してから事情が変わってきて、さらに現在は動画配信サービスも加わって乱立。放映権獲得競争で激しい火花が散っています」(経済ジャーナリスト)
そして現在、ジャッジの試合を全部見ようと思えば、YESとケーブル局に加えて、メディア・コングロマリットの動画配信サービスであるピーコック、さらにアマゾン・プライム・ビデオ、アップルのアップルTV+に分散してと、非常に面倒な態勢作りと経済負担を強いられる。
「実際、日本時間の24日にはセントルイス・カージナルスのアルバート・プホルスが700本塁打を放ち、メジャー史上4人目となる大記録を達成しましたが、この放送を行っていたのがアップルTV+でした。アップルTV+はアプリをダウンロードすれば無料で見られますが、アマゾン・プライムなどもスマホやパソコンでは物足りなくてテレビの大画面見たいのであれば、インターネット対応のテレビを購入する必要があって、いずれにせよ面倒なことには変わりありません」(同)
SNSでも「金払ってるMLB.TV(有料のメジャーリーグ公式動画配信サービス)で見れないのはクソ」「なんでAppleオンリーなんだよ」と、呪う声が上がっている。つまり、スポーツ中継にもGAFAによるサービス誘い込みの波が及んでいるのだが、これまでの慣行とは勝手が違うため、快く思わない人が多いのだ。
サッカー日本代表は、いよいよ11月にはドーハでワールドカップを控えるが、予選のアウェーの試合はDAZNが独占契約を結んでいたので、地上波で見ることが出来なかった。誰もが大一番の試合をテレビでタダで見ることが出来るわけではない。そのことでファン離れが心配されたものだが、それが「時代」ということなのだからどうにも抗いようがない。
(猫間滋)