親安倍・事務次官のクビを“二度切った”「岸田VS自民保守」の防衛費巡る綱引き

 確かに過去最高だが、倍増にはまだほど遠いものだった。来年度の防衛予算についてだ。8月22日に明らかになった防衛費の概算要求は、22年度の5兆1800億円を超える5兆5000億で過去最高に。ただし金額は示さないものの必要な項目を掲げた「事項要求」は100項目以上に及ぶ。22年度はわずか数項目だったからこれは異常な数だ。

「もともと防衛費は事項要求を入れて当初予算を過少に見せた上で、足りないものは補正予算で要求し、実際の防衛費は6兆円超になるものと思われます。その便利な項目を100以上も盛り込んだというのですから、急激な増額から国民の目を逸らすためといった意図があるのはもちろん、防衛費増をめぐる政府・自民党内の対立があるのが透けて見えるようです」(全国紙記者)

 自民党内では安倍元首相を筆頭とした保守派が盛んに防衛費の大幅増を主張し、財政規律派の岸田首相は消極的だ。安倍元首相は生前の5月には、「6兆円の後半から7兆円が見えるぐらいの金額が、相当な増額だと理解している」としていた。この頃は「骨太の方針」でどのように防衛費に触れるかについて、積極派と岸田首相が大きく対立していた。方針が閣議決定される直前まで「対GDP比2%」の文言を入れるよう安倍元首相がねじ込んできたことから、この対立は鮮明に映っていた。

 そして対立が大きく顕在化したのが7月1日のこと。長く安倍元首相の秘書官を務めた防衛省の島田和久事務次官が、留任するはずだったのが一転、官邸が「任期2年」の慣例を主張したために、事務次官を退任して参与に退いたのだ。

「そのようにして“安倍離れ”を徐々に打ち出したい官邸はさらに、安倍さんの逝去と参院選の勝利後に行われた内閣改造で、岸さんを防衛大臣からも外して岸田カラーを打ち出しました。さらには8月10日には新任の浜田靖一防衛大臣が島田さんを参与からも外して追い打ちをかけました。これには安倍応援団だった保守派から、『(浜田大臣の)最初の仕事がこれか』と怨嗟の声が上がったのです」(同)

 同じ10日には、この露骨な“安倍離れ”ならぬ“安倍外し”に危機感を抱いた清和会にあって、「ポスト安倍」の最右翼の1人である萩生田光一政調会長が改めて「2%以上の増額」と岸田首相に釘を指す発言を行っていたが、無所属でしがらみがなく、岸田首相の信任を得ている浜田大臣はどこ吹く風。

 とはいえ、岸田首相も「相当な額」の増額の約束はしている。その結果が今回の概算要求に表れているというわけだ。積極派に配慮しつつ、トータルな金額を巡る議論は先送りというのがいかにも岸田流といったところか。

 となれば、来年の予算案成立まで政府と自民党内部の綱引きが続くわけだが、インフレや旧統一教会の問題で支持率低下の岸田政権がおいそれと乗り越えられるとは思えない。ともすると政局にも発展しそうだが、この結論先送りの防衛費増額でどう決着をつけるか、大きな課題として残されるだろう。

(猫間滋)

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