菅政権がこれまで「GDPの1%以内」が不文律になっていた防衛費の増額を目論んでいる。岸信夫・防衛大臣が5月にその意向を表明していたが、ここへきて麻生太郎・財務大臣も8月10日の記者会見で「対応は当然」との見解を示し、金庫番が太鼓判を押したことで次の予算案での増額は必至だろう。
「防衛費の1%枠は1976年に当時の三木武夫内閣が定めた制限で、積極的なタカ派の中曽根康弘内閣の87〜89年と2010年以外はずっと守られ続けてきました。10年は世界金融危機で分母となるGDPが減少したためで、相対的なものでした。今回の増額の具体的な中身としては、南西諸島の離島などの防衛強化のための部隊増、宇宙・サイバー攻撃・電磁波といった新たな領域の強化。台湾の状況を日本の問題として考え、敵基地攻撃論は政府内で検討するとしています」(全国紙記者)
もっと簡単に言えば、1番の理由はもちろん対中国を念頭に置いてのもの。中国は1989年から2015年まで毎年10%以上も国防予算を拡大させ、21年も前年比6.8%増の20兆3000億円となっている。対する日本は5兆3422億円でおよそ4分の1に過ぎない。質の問題もあるが、額でもそれなりに対抗していくことが必要というわけだ。
増額はアメリカとの“約束”でもある。
「4月にアメリカのバイデン大統領と菅首相の首脳会談が行われた時に出された声明では『日米同盟強化』が掲げられ、そこには日本の防衛力強化が盛り込まれていました。防衛費の増加がこの約束に応えるものというアピールもしておかなければということです」(前出・記者)
増額は当然という雰囲気を国民全員に浸透させたいということか、16日には防衛省が小中学生向けの「はじめての防衛白書」を公開。ネットで簡単に見られるようになった。
その中身を見ると、全32ページの白書は防衛省がツイッターで宣伝している通り、「より平易な言葉で、イラストなどを多く使い、簡潔でわかりやすく記述した」ものとなっている。「国の防衛はなぜ必要なの?」と素朴な疑問に答えるところから始まり、インド太平洋地域・中国・朝鮮半島・ロシアの周辺地域の現状を解説。「憲法と自衛隊との関係」や必要となっている新たな取り組み、日米同盟の必要性などを説いている。
「対中国で言えば、中国を中心にして日本が上に来るようにひっくり返した地図が掲載され、中国が太平洋に進出していくにはいかに日本や台湾が上から蓋をしているように邪魔な配置になっているかという、地政学的な位置取りも見て分かるように工夫されています。また、増額の是非が問われている防衛費ですが、防衛予算については諸外国の国防費をドル換算でグラフ化した上で、『日本は、G7の国々やオーストラリア、韓国と比べても、国防費の対GDP比は一番低いです』と、ちゃっかりと増額の必要性をアピールするものとなっていますね」(前出・記者)
2000年代の金融ビッグバン以後、早い時期からの若者への投資・金融取引の教育が必要と言われ続け、そういった場も増えたが、今度は「防衛の教育も」ということらしい。
(猫間滋)