「読売新聞」がスポーツベッティング(賭博)に関する大反対キャンペーンを展開。政財界で憶測を呼んでいるが、その裏では、96歳にしてメディア界のドンと恐れられる「ナベツネ」の意向が見え隠れする。真正面から「経産省」にケンカを吹っかけたその深意に迫る─。
それは、青天の霹靂だった。6月7日、「読売新聞」の1面トップに、
〈スポーツ賭博 解禁案 経産省議論へ 猛反発は必至〉
というタイトルで突如スクープが報じられた。
記事中では、経済産業省がスポーツベッティング(賭博)の解禁に向けて取りまとめた素案が判明したことを伝え、スポーツ賭博を通じて放映権料や広告収入の拡大につなげる一方、八百長やギャンブル依存の危険性を指摘。さらに、
「スポーツ賭博には反対論が強く、スポーツ界はじめ各界の猛反発は必至だ」
と強調して、世論に訴えかけた。3面でも、〈スポーツ界「疑問」〉というタイトルで大きく取り上げ、スポーツ賭博の収益を部活動改革の財源に回す構想について、批判的な意見で牽制している。
これだけでも十分な波紋を呼びそうだが、「読売新聞」はさらに二の矢、三の矢を放つ。翌8日からスポーツ賭博を検証した短期連載が始まり、スポーツ賭博の沼にハマった男性の転落劇など、12日まで5回にわたって続いたのだ。それにしても、なぜここまでネガティブキャンペーンを展開したのか。その理由を、政治部デスクはこう語る。
「読売新聞グループ本社の渡邉恒雄代表取締役主筆(96)は、とにかく賭博が大嫌い。18年7月に成立した『カジノ法案』の時も大々的に批判を強めたほど。今回も渡邉主筆の意向を汲み取りスポーツベッティング潰しに動いた、と見られます」
渡邉氏といえば、巨人軍オーナー時代に「ナベツネ」の愛称の一方で、「球界の独裁者」と畏怖され、永田町では「時の総理も動かす」と言われるほどの大物中の大物だ。
読売関係者にネガティブキャンペーンについて聞いてみると、「読売にとって渡邉主筆の意向ということは、社是であり、社訓」だと言い切る。
批判の矛先を向けられた経産省にとっても記事の効果はテキメン。萩生田光一経済産業相(58)は、
「私の知る限り、経産省が主導して直ちに実現化したいという動きは全くない」
と、火消しに奔走すれば、末松信介文部科学相(66)も定例会見で、
「財源的な検討は、一切そんなことはしていない」
と、シラを切っている。それでも、読売の狙いは霞が関だけではないようだ。作家で政治ジャーナリストの山村明義氏はこう説明する。
「スポーツベッティングは、楽天グループ、ソフトバンク、DeNAなど約60社が加盟する『スポーツエコシステム推進協議会』が音頭を取っています。4月19日に日本のスポーツを対象とする海外のベッティング市場が年間5兆〜6兆円に上ると試算を発表するなど、民間側から解禁に向けた動きが活発になっていました。特にIT企業が多く参入していて、いわば紙媒体と対立する関係。5年以内に紙媒体に代わって主導権を握ろうと、実績を作り野心を燃やしています。水面下で推進派と反対派ががっぷり四つの状況で、先に動いたのが渡邉氏。山口寿一代表取締役社長(65)に陣頭指揮を任せ、経済部、社会部、政治部、運動部、教育部という異例の総動員で先制攻撃を仕掛けると、政府も慌てて否定に走った。それで、IT企業を中心とした推進派は公にモノを言えなくなってしまったのです」
百戦錬磨のドンに、してやられてしまったのだ。
*ナベツネVS経産省「スポーツ賭博反対キャンペーン」の深層(2)につづく