だから言わんこっちゃない。ソフトバンクの柳田が二塁にヘッドスライディングした際に左肩を痛めて、4月7日に出場選手登録を抹消された。自分から故障しにいったようなもので、罰金を取られてもおかしくない。藤本新監督のもとでチームは開幕8連勝の最高のスタートを切ったのに、柳田が抜けると打線のバランスが大きく崩れて得点力不足に陥った。中心選手が一人いなくなるだけで、チームはガタガタになることがある。
いつも言うように「アウト一回、ケガ一生」。飛び込むのはプールだけでいい。突き指や脱臼ぐらいで済めばいいけど、ひとつのプレーで選手生命が終わることだってある。ヘッドスライディングは、ほんまにやめたほうがいい。毎年、誰かが後悔する羽目になっている。今回のギータの場合は軽症というけど、長期離脱になったら悔やんでも悔やみきれない。子供たちの憧れのプレーヤーなんやから、みんながマネしないように、なおさら危険なプレーは避けてほしい。
これだけ口酸っぱく「ヘッドスライディング禁止」を訴え続けても、いまだになくならないのは、マスコミにも責任があると思う。走塁だけでなく、守備でも頭から突っ込めば「ガッツがある」やら「闘志あふれるプレー」と、すぐにもてはやすのがアカン。僕の解説の時は中継アナウンサーも気をつけるようになったけど、テレビやラジオではいまだにアホなことを言っている。
選手も芝居じみたアピールプレーはやめたほうがいい。阪神では2年目の中野が、4月1日の巨人戦で2打数2三振1失策。矢野監督が「気が出ている感じがしない」と、途中交代を命じた。すると次の試合では一塁へのヘッドスライディング。テレビや新聞はすぐに「気迫のプレー」と表現したがるけど、それは違うやろ。中野も周りから「覇気がない」とか言われても気にする必要はない。打てない時はそう見えるだけで、ヒットが出始めれば言われない。そもそも気持ちだけで何とかなるような甘い世界やないんやから。
ソフトバンクは柳田だけでなく、3月30日には不動のレギュラーになりつつあった栗原が、レフトの守備で大ケガをした。左中間への打球を追って、センターの上林と交錯。左膝の靱帯断裂などで今季の復帰が絶望となった。これも防げるケガやった。せっかく日本代表にも選ばれるぐらいの選手になったのに、もったいなさすぎる。80年代には巨人の吉村が外野の守備で交錯し、左膝靱帯を断裂。その後の野球人生が大きく狂ったことがあった。当時と今では医学も進歩しているとはいえ、栗原も長く辛いリハビリをしないといけない。
中間の打球処理は選手同士の声の連携もそうやし、普段からの打ち合わせも必要。普通はセンターが優先で捕りにいくものやけど、どちらがカバーに回るかなど、あらかじめ決めておかないといけない。お見合いしてヒットにしてしまうとベンチでこっぴどく怒られるけど、ケガでいなくなるほうがチームには痛い。
新型コロナの感染だけは気をつけていてもどうしようもない時もあるし、今季も泣かされている選手やチームが出ている。でも、グラウンドでの故障は防げるものばかり。「ケガせず、いいプレー」を見せるのが本物のプロだと肝に銘じてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。