16年に14歳2カ月の史上最年少棋士としてデビューして以来、数々の最年少記録を塗り替えてきた藤井二冠。その勝率は8割4分と破竹の勢いは止まらない。しかし、その前に大きく立ちはだかるのが豊島竜王だ。王位戦第2局を終えて2勝7敗。若き天才棋士が勝てない理由と最大の難局を全方位解剖する。
「藤井さんらしくない」
「見たことのない一方的な負け方だ」
6月29・30日に行われた、お〜いお茶杯王位戦第1局。挑戦者に豊島将之竜王(31)=叡王と合わせて二冠=を迎えての7番勝負初戦で、藤井聡太二冠(18)の一方的な敗戦ぶりに解説陣も一様に首を傾げるばかりだった。8時間の持ち時間のうち1時間40分を残しながら、終盤の粘りも見せない、まさに藤井二冠らしからぬ惨敗となった。
この試合の経過を、屋敷伸之九段が解説する。
「先手番の藤井王位が『相掛かり』で臨むと、豊島竜王は真っ向から応酬するという、序盤から激しい戦いとなりました。初日の封じ手は豊島竜王。この時点で若干リードしていた豊島竜王が、2日目もそのまま押し切って、最後に競り勝ちとなりました」
果たしてこの完敗の原因はどこにあったのか。同対戦の解説を務めた深浦康市九段はこう看破する。
「藤井王位は先手番でやりたい型があった。持久戦に持ち込み、全部の駒を使うことを目指していた。しかし、豊島竜王が揺さぶりをかけたことで序盤から激しい展開になった。初日の封じ手前の『8七歩』があまりよい手ではなかった。そのあたりから豊島竜王のペースとなってしまい、その結果、慣れない形となり完敗してしまった」
これをもって、将棋界最高ランクの竜王の座を保持するトッププロの壁、と一言で片づけることはできない。
その3日後に行われた棋聖戦では、竜王と双璧をなす名人を持つ渡辺明三冠(37)を相手にし、5番勝負の棋聖戦を3連勝のストレート勝ち。初のタイトル防衛に成功しているのだ。
将棋ライターが、トップ棋士の対戦成績を解析する。
「羽生善治九段(50)が18年の竜王戦で27年ぶりに無冠となり、将棋界は戦国時代に突入した。8大タイトルを、渡辺(名人、棋王、王将)、豊島(竜王、叡王)、藤井(王位、棋聖)、永瀬拓矢(28/王座)の4人で奪い合う〝4強時代〟になっている。藤井二冠は豊島竜王に大きく負け越しているが、反対に渡辺三冠には8勝1敗と圧倒しています。一方で、豊島竜王は渡辺名人相手に14勝21敗と負け越している。まさにトップ3はじゃんけんのような三すくみ状態となっているのです」
カモにするのも、されるのもどちらもトップ棋士。節穴だらけの素人目には映らない相性があるようだ。