今や世界各国で運行されている日本の新幹線に相当する高速鉄道。なかでも中国は誕生こそ07年と後発ながら20年末時点で高速鉄道網の総路線距離は約3万8000キロ。これには日本のおよそ10倍の規模だ。
国土の広い世界最大の鉄道大国だけに当然といえば当然だが、ゆえに高速鉄道でも移動にはそれなりに時間を要する。そうした事情から運行されているのが寝台新幹線だ。
かつては日本でも寝台列車が数多く走っていたが、現在は東京~高松・出雲市を結ぶ『サンライズ瀬戸・出雲』のみ。新幹線に至っては開業から半世紀を越す歴史の中で夜行列車が運行されたことは一度もない。
筆者は以前、広州から上海まで寝台新幹線を利用したが、1800キロの距離を約8時間で移動。新しい車両なので車内もキレイで、すべての寝台が個室になっていた。読書灯やコンセント、洋服掛けなどもあり、嬉しいことに個室ごとに室温調節が可能だった。
寝台新幹線は出張のビジネスマンからも大人気。「車内は一般の寝台列車と違って揺れも騒音も少ない。なにより前泊せずに翌朝早い時間からの打ち合わせや会議に参加できるから重宝しています」と語るのは、出張時によく利用するという30代の日系企業駐在員。
そんな寝台新幹線だが、日本でも実用化の計画がなかったわけではない。実際、1973年に製造された「新幹線961形電車」という試作列車には寝台席が設けられていた。
「当時はブルートレインが活躍した寝台列車全盛期。新幹線にもそうした計画があったのは自然の流れでした。しかし、新幹線が高速化したことで目的地により早く到着できるようになり、わざわざ夜行列車にする必要性がなくなったんです。それに夜間に列車の運行がなければ保線作業をする時間を確保できる利点もありました」(鉄道ジャーナリスト)
それでも見た目的に中国の高速鉄道は日本の新幹線に似ており、それで寝台車があるのはかなり新鮮。効率的に主要都市を移動でき、コロナ明けの旅行で利用するのもよさそうだ。
(高島昌俊)