中国版新幹線「負債120兆円」が地雷原に…“中国の隠れ債務”が引き起こすリスク

 不動産とともに、経済成長を牽引してきた中国版新幹線「高速鉄道」が“地雷原”として表出してきた。

 中国の独立系メディア「財新」によれば、中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業・中国国家鉄路集団の2021年1~3月期決算は売上高が2270億1700万元(約3兆8252億円)。前年同期比19.6%増とあるが、21年末時点での負債総額は5兆9100億元(約120兆円)、なんと中国のGNP(国内総生産)の約5%にも上っている。

 中国の鉄道はかつて、中国人民共和国鉄道省が運営していたため、もともと採算については無頓着だった。鉄道の近代化・高速化を目指すなかで何度か組織が改編され、2007年に高速鉄道時代に突入すると、それからわずか3年後の2010年12月には、総延長が8358㎞にまで達し、世界最大の高速鉄道網を築き上げた。

 しかし路線拡大を無軌道に進めたためか、2011年7月には世界の鉄道史に残る最悪の脱線事故を起こす(温州市鉄道衝突脱線事故)。40人を超える犠牲者を出す大事故だったが、さらに当局はなんと、事故隠しのために脱線した事故車両を地中に埋めるという暴挙に出て、世界を驚嘆させた。

 また、鉄道省は日本円にして年間5兆~10兆円の予算をもつ世界最大級の事業体であり、ゆえに汚職の温床にもなった。11年には、鉄道大臣・劉志軍が1500億円ともいわれる巨額収賄容疑で逮捕されている。

 安全管理の徹底や汚職体質からの脱却のために2013年に鉄道省は解体され中国鉄路総公司となり、さらに19年に中国国家鉄路集団に変更された。それでも高速鉄道の延伸は止まらなかった。昨年1年間だけで2168㎞も延びている。

 その結果、現在の総営業距離は日本の新幹線の総距離3300㎞の13倍にあたる約4万㎞。しかも、中国政府は高速鉄道を景気回復の切り札と見ており、延伸が止まる気配はない。25年には5万㎞、35年には7万㎞に延ばす計画だ。

 高速鉄道の建設には莫大な費用がかかる。資金は地方政府と中国国家鉄路集団が負担する方式。どう都合するのか気になるが、おそらく鉄道債を発行することになるだろう。1㎞の鉄道敷設に1億2000万~1億3000万元(約20億8000万円)必要とされるので毎年1万㎞建設したとすると、年間1兆3000億元(20兆3000億円)が必要となる。累積する債務も巨大だ。

 しかも、新たに建設する路線は乗降客の見込めない過疎地も含まれている。そこまでして計画を押し進めるのは何故なのか。

 理由は3つ考えられる。1つは広大な中国の地域間格差の解消。2つ目は鉄道延伸事業が始まる地域で2800種類の仕事が生まれること。そして3つ目が高速鉄道の実績で高速鉄道システムの輸出を促進させるという狙いである。

 いずれにしても、中国の労働人口が減少に向かう中で、これまでのように債務を増やし続けることは、中国国家鉄路集団ばかりか国家の破綻さえ招きかねないだろう。さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることだ。
 
 中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派である。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さだ。

 また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われる。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまである。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情だ。

 中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねない。

(団勇人・ジャーナリスト) 

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