東京五輪の大会組織委員会と政府、IOCなどの代表者による5者協議が21日開かれ、五輪観客数の上限を会場定員の50%以内で最大1万人とすることが決定。さらに、7月23日に国立競技場で行われる開会式では、一般観客1万人に加え、大会関係者用の〝特別枠〟を1万人追加し、全体の入場者数を2万人とすることを検討していることが明らかになった。
この発表に対し、スポーツ紙記者が呆れた顔で言う。
「少し前まであれだけ『人流』や『三密』を避ける!と公言していたのに、ワクチン接種が進むにつれ、無観客でという議論がどこかへ吹っ飛んでしまった。で、蓋を開けてみると、観客1万人という数字が出て、今度は開会式で2万人の入場を可能に、というんですからね。1万人でも相当な密状態。それを倍にするのなどバカげているにもほどがある。結局は大会組織委員会や政府が、五輪貴族と呼ばれるVIPやスポンサーへ忖度しているということに他ならない。残念ですが、これでさらに国民の五輪離れの気持ちが強くなったことは間違いないでしょうね」
というのも、ワクチン接種が続く海外でも、いまだ感染力が強く重篤化が懸念される変異ウィルスによる感染が収まっていないからだ。医療ジャーナリストが語る。
「感染することでワクチン効果を弱め、重篤度が増す可能性がある変異ウイルスといわれるのが、イギリス由来の『アルファ株』、南アフリカ由来の『ベータ株』、ブラジル由来の『ガンマ株』、そしてインド由来の『デルタ株』の4つ。なかでも、デルタ株はすれ違っただけで感染すると言われるほど、すさまじい感染力を持つとされています。英国のデータによれば、その感染力はアルファ株の1.4~1.6倍で、英国では人口の半分近くが2次接種を終えるなど、ワクチンが急速に普及し、当初は今月21日にロックダウン規制を解除予定でしたが、そんな中での感染確認数急増により、結局、防疫解除の日程を4週間延期することになったほど。ロシアのモスクワでも2週間前は3000人程度だった新規感染者が、2日連続で9000人を超え、いまも増え続けています。つまり、デルタ株の場合、ワクチンを接種しても、感染そのものは防げないというわけです。デルタ株は既に日本各地でも感染者が確認されていますから、五輪が開幕され、2万人も集まれば、新規感染者が増える可能性は大きい。そんな中であえて密を作るなど、とても正気の沙汰とは思えません」
厄介なことに、デルタ株は新型コロナウイルス感染症の特徴である発熱や、乾いたせき、疲労感のほか、嗅覚の喪失がない場合があり、その代わりに、頭痛やのどの痛み、鼻水といった症状が現れるケースが多いのだとか。
「そのため、英国では、季節性の風邪をひいただけだと考え、外出したり会食したりして、感染を広めてしまったというのが、専門家の見解です。ただ、とんでもないスピードで広がっているため、政府もきちんとした情報を伝えきれていない。結果、それが感染拡大を防げない要因になっているようです」(前出の医療ジャーナリスト)
英国では、たしかにワクチンを2回接種した場合、重症者が抑えられていることは事実。ただ、基礎疾患の種類によっては、死亡リスクが高いことは変わらないという。
日本でも1日100万回に迫るペースで接種が続いているが、ウィルス対策としてワクチン普及は第一の課題。ただ、たとえワクチンが普及しても、形を変えてやってくる変異株の恐怖があることを忘れてはならない。
(灯倫太郎)