韓国の日刊紙「東亜日報」は4月29日、北朝鮮の金正恩委員長が些細な一言に激怒し、合唱団の指揮者を公の場で無残な方法で処刑した、というニュースを伝えた。
記事によれば、事件が起こったのは、故金正日総書記の誕生日である今年2月16日。北朝鮮では、この日を「光明星節」として祝う習慣があり、金正恩氏は妻同伴で、平壌にある万寿台芸術劇場で記念公演を鑑賞していたという。
そんななか、演目のひとつに、俳優たちがスクリーンの裏で手品を行うパフォーマンス、通称「シャドー・マジック」と呼ばれるものがあり、その見事な演出があり、金夫妻はいたくご満悦の様子だったという。
「そこで、夫妻は公演後に劇団員たちに直接声をかけねぎらったそうです。ところが、公演に参加していたある合唱団の指揮者が、近くにいた人物に『自分はそんなにいいと思わなかった』と耳打ちしたようなんです。もちろん、金夫妻がそれを直接聞いたわけではありませんが、なにせ、監視社会の北朝鮮のこと。すぐにそれが密告されてしまった。結果、その日の深夜、国家保衛省により、指揮者の身柄は拘束されたのだそうです」(週刊誌ライター)
ところが、この事件は、逮捕だけでは済まなかった。なんと、2日後には、平壌在住のすべてのアーティストに集合命令が下ったというのだ。
「集められたアーティストたちはその後、平壌市内の処刑場に移動。すると、問題発言を行った合唱団の指揮者が、柱に縛りつけられていたといいます。そして、AK47自動小銃を持ったライフル銃兵3人が、10メートル離れた場所から銃を連射したとか。3人で30発ずつですから全部で90発。記事では《90発の弾で撃たれた遺体は、持ち上げることもできないほどずっしりと重かった》と結んでいますが、見せしめのためとはいえ、とても人間の所業とは思えない。このニュースがSNSにアップされたことで、改めて北朝鮮に世界中から非難の声が寄せられています」(前出のライター)
北朝鮮では「粛清」と称して、毎年多くの処刑が行われているというが、前出のライターによれば、処刑を担っているのが社会安全省(警察庁)、国家保衛省(秘密警察)などの治安機関だという。
「北朝鮮の刑務所では、銃殺、斬首、絞首などによる死刑が日常的に執行されているようですが、その多くが、食糧を盗んだり、収容所から逃げようとしたり、政府を批判したといった罪状です。一方、『見せしめ』として行われるのが公開処刑。これは、国際社会による制裁強化でエリート層の忠誠心が弱まったことで、恐怖政治をアピールする意味合いが強い。そのため北朝鮮当局は、もっとも恐怖を与えたい人々をターゲットに、公開処刑を最前列で見ることを強いるケースが多いんです。たとえば、死刑囚が軍人だったら、最前列は軍人、死刑囚が芸能人ならば、芸能人を最前列に並ばせる。ただ今回は、一人の指揮者を処刑するため、平壌在住のアーティストを一堂に集めていますからね。あるいは、粛清された指揮者は、国内でそれなりの地位だった人物の可能性が高いかもしれません」(前出のライター)
北朝鮮では昨年12月、韓国の映像物を流入・流布した場合、最高で死刑、視聴しただけでも最高懲役15年の刑罰を科す「反動思想文化排撃法」を最高人民会議で採択したばかり。そう考えると、今回の公開処刑、実はブチギレは口実で、新法アピールするためだった可能性も……。
(灯倫太郎)