「現場となったパブは大打撃ですよ。何しろあの騒動後、1カ月以上にわたってお店は休業。しかもそれから緊急事態宣言が発令されたことで休業期間はさらに延長。ようやく再開の目途がたったというのに、女性従業員が怖がってなかなか出勤したがらなかったようです。かつての平常営業だった時のにぎわいはもう戻らないんじゃないかと、常連客も心配していますよ」
愛知県蒲郡市の”事件現場”となったフィリピンパブの周辺では、地域住民の危惧する声が絶えない。
「ウイルスをばらまいてやる」
そう家族に告げて男が家を出たのは3月4日のことだった。この「ばらまき男」が居酒屋を経由して向かったのが市内にあるパブ。一部報道によれば、店内でカラオケを気持ちよさそうに歌っていたというが、やがて家族の通報をきっかけに、男の「コロナ感染」が明らかとなり、店内は大パニックに陥ったという。
「その後、警察官が防護服で駆けつける騒ぎになり、濃厚接触したと見られる客や従業員が自宅待機を要請されました。また、男と接触した女性従業員はのちの検査で陰性と判定されたものの、男と同じソファに座った女性従業員は陽性と診断されて、入院を余儀なくされています」(地元紙記者)
警察が業務妨害の容疑で捜査を進めていくなか、事態は急展開を迎える。それから約2週間後に男が死亡していたことが判明したのだ。
事件から3カ月以上が経ったが、「ばらまき男」の一件は今なお、蒲郡に深い爪痕を残しているという。現地で街の声を拾うと、いかに街のイメージダウンにつながったかがわかる。タクシーの運転手はこう話す。
「市のイメージダウンにつながり、観光客の減少に影響していると思います。悪くなった市の印象を向上させるのは、なかなか短期間では難しいのではないでしょうか。県外の友人からは『蒲郡といえばウイルス事件があった場所だよな』と笑われましたよ。正直、腹立たしい気持ちでいっぱいです」
また、蒲郡市で飲食店を営む男性は次のように語った。
「蒲郡といえば、やっぱりボートレース場なんですよね。せっかく6月に入って営業再開して、街に活気が戻ってくると思っていたのに、それほどにぎわっていない様子。いまだに蒲郡って言うと、あの事件のことを思い浮かべて、『危険な街』だなんて警戒してしまうのかもしれませんね」
男がウイルスをばらまいたフィリピンパブの関係者にも話を聞くことができた。
「昼間はカラオケ喫茶として営業していますよ。かつての常連が『応援したい』という気持ちから、訪ねてきていて、お昼の営業はなかなか好調のようです。ただ、“ばらまき事件”では何百万円という大損害をこうむっているそうですからね。損害賠償を請求しようにも、当人がこの世にいないんじゃ、どうすることもできない。被疑者死亡のまま書類送検でコトが終わるとあっては、オーナーもやりきれない思いでいっぱいではないでしょうか」
6月16日配信の「朝日新聞DIGITAL」の記事によれば、3月以降、新型コロナウイルスに感染しているかのような発言をして逮捕される事件が愛知県内で多発しており、逮捕者の数は7人にのぼったという。なかには、60代の男性が「俺コロナだぞ」と言いながら公共施設の職員にツバを吐きかけたとして、暴行罪で起訴されたケースもあったという。3月に蒲郡市で発生した「コロナばらまき事件」がいかに甚大な被害をもたらしたか、その爪痕の深さを知れば、このような事件は二度と起きないはずだ。