国立の研究機関である理化学研究所が、人の髪の毛のもとになる「毛包組織」を培養して毛髪を増やす再生医療技術の開発に成功。このことを発表したのは18年6月だった。以降、脱毛症治療の実用化に向けて研究が進められている、今年注目の「毛包(もうほう)」とは‥‥。
日本人の髪の毛の数は平均で約10万本。1本の毛が生え始めて脱落するまでには「成長期」「退行期」「休止期」を繰り返すが、男性の場合、ヘアサイクルは3〜6年とされる。
「そのヘアサイクルを順調に繰り返していけば、髪のボリュームはキープできます。ところが、男性型脱毛症(AGA)になると成長期が短くなり、髪が成長不足のまま脱落してしまう。すると、毛包が十分成長しないで小さくなっていく『毛包のミニチュア化』が起こる。1本1本が細く短い毛になり抜け毛も増えて、やがて薄毛へ、という道をたどっていくことになるんです」
そう語るのは、「ぜんぶ毛包のせい。薄毛・AGA ニキビ ヒゲ・体毛 ニオイ 汗」(雷鳥社刊)の著者である花房火月医師(はなふさ皮膚科院長)だ。
毛は皮膚の表面に出ている部分を毛幹、目に見えない部分を毛根と呼ぶが、
「毛包というのは皮膚の中にあって毛を包んでいる臓器のこと。毛は毛包のいちばん奥で作り出され、どんどん押し上げられ、やがて皮膚の表面に現れることになります」
ただ、毛包は単体では力を発揮することはできず、周りと連携し「毛包ユニット」として、さまざまな仕事をしている。
「メインの仕事は毛を作り出すことですが、さらに、ニオイは毛包ユニットのアポクリン汗腺、ニキビは毛包ユニットの皮脂腺が影響しています。つまり、男性が気にしている薄毛や体臭といったコンプレックスの大半がこの毛包に関わっているということです」
毛包のメカニズムを知れば、コンプレックスの9割は解消できるのだと。ところが─。
「例えば髪の毛もヒゲも、男性ホルモンであるテストステロンの影響を受けています。テストステロンは主に精巣や副腎で作られ、血液を通って毛包内の毛根へと行き着くのですが、毛包内では酵素によりテストステロンがジヒドロテストステロンに変化し、それによって毛の成長が妨げられます。この酵素の働きには個人差があり、活性化する酵素が強い人ほど薄毛になりやすい。でも、ヒゲは酵素が強い人ほど濃くする方向に作用します。そこが難しいところなんです」
しかも、酵素の強さは複数の遺伝子が組み合わさって影響を与える「多因子遺伝」によって決まるため、自身でコントロールすることはできない。さらに、毛の濃さには男性ホルモンも少なからず影響しているという。
「例えばAGAの場合、前頭部と頭頂部に薄毛の症状が現れますが、理由はこの2カ所は男性ホルモンに対する毛包の感受性が強いから。一方、側頭部と後頭部は毛包の感受性が弱いので、AGAでもその部位の毛は残りやすくなるというわけです」
つまり、残念ながら男性のコンプレックスの源となる「毛包」は、持って生まれたDNAに支配されているというのが現実なのだ。