「自民支持率が10%は下がる。石破では夏の参院選は戦えない」
こう激高するのは自民党長老だ。長老が激高するのは他でもない、石破首相が二転三転した高額療養費制度引き上げ問題だ。
高額療養費制度とは、同一月の医療費の自己負担額に上限を設け、超過分は税金、保険料から支払われる制度。昨今は高齢化やがん治療に使用されるオプジーボなど高額治療薬の普及で、この額が増加。現役世代の負担が大きく、制度の存続危機が指摘されていた。そのため国は自己負担額の上限を引き上げようとしたのだが、予算案が衆院通過後に見送りとなった。厚労省担当記者が言う。
「当初は、今年8月から段階的に患者負担額を引き上げる方針でした。ところが2月半ば、首相が長期治療患者の負担額は引き上げず据え置くことに変更。ところが2月末、『今年8月にやはり引き上げを行う。一方で来年以降の引き上げは再検討する』とした。そして7日には3度目の変更で全面凍結です」
なぜ二転三転したのか。
「高額療養費の見直しはそもそも自民党参議員から、参院選が戦えないと反対の声が高かった。ところが石破官邸は、高額療養費の8月引き上げを変更すればまた予算案を修正しなければならず、そうなると衆院での予算通過が遅れる。そのため『8月予定どおり引き上げ、来年からは再検討』という訳の分からない案となって3月5日に予算案を衆議通過させたのです」(同)
この流れを大きく変えた一つが東京都医師会(尾崎治夫会長)だ。「引き上げ反対、凍結を」と緊急声明を出したのだ。
「都医師会は緊急声明理由を弱い患者のためとしていたが、背後で囁かれていたのは対参院選対策です」(同)
自民党は夏の参院選に向け、武見敬三元厚労相を東京選挙区で公認している。武見氏は都医師会と深い関係で、医師会としては落とせない候補。だが武見氏は選挙に強くない。自民党都議が言う。
「昨年から特捜部が調べている都議会自民党の裏金問題は参院選にも大きく影響する気配だ。さらに高額医療費の見直しがからめばイメージは最悪。2019年の参院選では、自民は東京選挙区に武見氏と丸川珠代氏の2人を立て、丸川氏が大量得票する一方、武見氏はギリギリ滑りこむ大苦戦。今回も石原伸晃氏の出馬が有力視されており、そうなれば武見氏はいよいよ危ない。だから都医師会も、せめて高額療養費のトゲだけでも抜いておきたいと必死で、最後は石破氏にノーを突きつけたと聞く」
都医師会の動向は日本医師会にも波及する。かつて100万ともいわれた日本医師会の集票能力も今は30万とされるが、依然として自民党の大集票マシンであることは間違いない。そのマシンが猛反発なら一大事。首相も折れざるを得なかったようだ。
「そもそも参院選前に高額療養費問題を俎上にのせることが石破の政治センスのなさ。参院選前にお引き取り願いたい」(自民党幹部)
「商品券問題」がトドメとなるか。
(田村建光)