2月28日、米国の首都ワシントンで行われたトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談は決裂した。本件で興味深いのは、米ホワイトハウスが会談後に「トランプ大統領とバンス副大統領は米国民のために立ち上がる」と題する文書を公表したことだ。
〈ドナルド・J・トランプ大統領とJD・バンス副大統領は、常にアメリカ国民と、世界のなかでのアメリカの立場を尊重する人々のために立ち上がる。そして、アメリカ国民が不当に扱われることは決して許さない。
《トランプ大統領:言っておくが、あなたたちにはカードがない。我々がいればあなたたちにはカードがあるが、我々がいなければあなたたちにはカードがない》
・ウクライナ人の半数以上(52%)が戦争の早期終結を望んでおり、ウクライナは「平和と引き換えに領土の一部を割譲する用意があるべき」と考えていることが、11月のギャラップ世論調査で明らかになった。
ウクライナで戒厳令が導入されて以来、100万50人のウクライナ人が徴兵された。2024年10月、ウクライナはさらに16万人を徴兵すると発表し、徴兵されたウクライナ人の総数は116万50人に達した。ウクライナ軍の平均年齢は43歳である。たとえ西側諸国が約束したすべての兵器を提供したとしても、『それを使う兵士がいない』と、ウクライナ大統領のヴォロディーミル・ゼレンスキー氏の側近の一人がタイム誌のサイモン・シュスター氏に語った。(中略)
ウクライナ軍は「訓練不足で疲弊した兵士たちが無断欠勤している」ため任務放棄が増加しており、さらに、兵士の募集難や「尊敬され、人気のある戦闘指揮官の逮捕」により、軍はさらに苦境に立たされている。
《トランプ大統領:第三次世界大戦を賭けているようなものだ》
・ゼレンスキー自身もウクライナの状況が第三次世界大戦につながる可能性を認めている。米国の支援がなければ、ウクライナは敗北するだろう。「第三次世界大戦はウクライナで始まり、イスラエルで続き、そこからアジアへと広がり、どこかで爆発するだろう」(以下略)〉(「ホワイトハウスHP」)
外交の世界で、友好国の首脳間で激しい言い争いをすることは、稀にだがある。その場合でも、争いの内容を公式文書で発表することは差し控える。文章にすると事態が固定化し、外交上の選択の余地が狭まるからだ。今回、ホワイトハウスHPにこの文章が掲載されたのは「ゼレンスキー氏に絶対的な非がある」というのがアメリカ政府の立場だということを国際社会に周知徹底するためだ。ゼレンスキー氏に対する支持を表明したヨーロッパ諸国の首脳は震え上がっていると思う。
ゼレンスキー氏はトランプ氏の虎の尾を踏んだのだ。筆者が以前から繰り返し述べていることであるが、国際社会のゲームのルールが(新)帝国主義に転換したのだ。この現実を冷静に見据えて、日本の生き残りについて考えていかなくてはならない。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。