少数民族武装勢力が実効支配するミャンマー東部地域での、中国系犯罪組織の詐欺拠点摘発が相次いでいる。同地域には「KKパーク」と呼ばれる組織の拠点が30以上存在。タイ政府によれば、犯罪組織はこの地域で25の国々から騙して連れてきた1万人以上の外国人を拉致監禁し、それぞれの国で特殊詐欺の実行役として加担させていたという。
「タイ国境にあるミャワディ周辺は、もともとミャンマーの中央政府の統治が及ばない地域で、2010年代後半に政府が中国資本による都市開発計画を認可。中国企業が多額投資し、現地の武装勢力と組んで大学や病院、エンターテインメント施設などを作る予定だった。しかし、いざフタを開けてみたらカジノやホテルなどリゾートなどが林立。そこに流入したのが中国の犯罪集団だったというわけです。結果、カジノなどに紛れ、巧妙な手口で海外から外国人をおびき寄せ、拉致監禁しては人身売買したり犯罪に加担させていたとされています」(東南アジア情勢に詳しいジャーナリスト)
今回、「KKパーク」の存在がクローズアップされたきっかけは、中国系特殊詐欺グループが、中国若手俳優の王星をニセ映画のオーディションと称しタイにおびき寄せ、ミャンマーに監禁したという人身売買事件だったが、
「犯行グループのなかには、習国家主席肝煎りの巨大経済圏構想『一帯一路』を隠れ蓑にして同地に入り込んだ輩もいたことから、体面を気にしてか政府としても、なかなか本腰を入れて捜査に乗り出すという立場をとってこなかったようです。
しかし、王星の事件が大騒動になったことを機に、王毅共産党政治局員兼外相が、東南アジア10カ国の大使らを呼び出し、取り締まり強化を要請。公安省の劉忠義次官補もタイに足を運び、関係当局にハッパを掛けたことから、今回の一斉摘発となったと言われています」(同)
中国公安省は1月、ミャワディだけで36の中国系詐欺集団があり、10万人以上が活動しているとタイ当局に報告。詐欺拠点を次々に摘発し1~2月にかけ、これらの拠点から多くの外国人を保護したことは、すでに報じられるとおりだ。
「2月に入りタイ政府は、組織を一網打尽にすべくタイ・ミャンマー国境の5地点で電力、燃料供給、インターネット接続を遮断したため、国境付近は夜間の照明が大幅に減少。暗闇に包まれるようになったと伝えられています。ただ、摘発の情報をいち早く掴んだ組織は逃走したものも少なくないようで、あるいは保護された中にも一味の人間が多く含まれているという
ミャンマー東部の一部地域を実効支配するカレン族の武装勢力「国境警備隊(BGF)」の発表によれば、2月26日時点で詐欺タウンから保護した外国人は約7000人。内訳は中国人が約4800人で、ベトナム人とインド人がそれぞれ500人以上。日本人やヨーロッパ人もいることが明らかになっているが、
「詐欺タウンに連行されてきた外国人たちは、鉄格子がある部屋に閉じ込められ、一日の大半を詐欺行為に費やしていたのだとか。そんなことから労働に耐えきれず、自ら命を絶つものもいたようです。ただ、逆に『仕事ができる』人間には、ある程度の報酬が与えられ、それをタウン内のレストランやカジノなどで使うことが出来たようです」
報道によれば、詐欺タウン内には、飲食店やギャンブルが行える店ほか、違法薬物が堂々と売買され、性サービス店もあったようだ。しかしタウンのエリア外には出れないため、結局、報酬はそのなかで使うしかなく、逆らえば容赦なく殴られ蹴られ、なかには電気ショックを与えられるなど地獄絵図さながらの光景が広がっていたようだ。
(灯倫太郎)