トランプ関税をめぐって世界が混乱する中、トランプ大統領がついに対中関税砲を打ち上げた。トランプ大統領は2月に入り、メキシコとカナダからに全輸入品を対象とした25%の関税を見送る一方、中国に対して一律10%の追加関税を発動した。
中国は当然のようにそれに反発し、報復として米国からの石油や液化天然ガス(LNG)に対して15%、原油や農業用の機械、排気量の大きい自動車などに10%の関税を課し、アメリカが国際貿易機関(WTO)のルールに違反しているとしてWTOに提訴すると発表した。
トランプ外交の最重要課題は対中国であることから、今後も中国に対して強気の姿勢を堅持し、一律10%の追加関税は単なるプロローグに過ぎないだろう。しかし、これだけでも双方の思惑の違いが読み取れる。繰り返しになるが、トランプ大統領はいかに中国との競争に勝つか、もっと言えば、いかに中国に対する政治、経済、軍事的な優位を保つかに躍起になっており、そのためにはどんな手段も躊躇しない構えだ。
むろん、高い関税をかければかけるほど、相手国からの報復関税もより大きいものになり、輸入品と国内品の双方の物価高を招き、米国民にとっても重荷になる。しかし、トランプ大統領は安価な中国製品が大量に流入してきたことで国内企業が廃れたのであり、国民(トランプ支持者たち)はそれを理解してくれるとの認識に立っている。中国からの輸入品に一律関税をかけた背景にはこれがある。中国がどう報復するかは関係なく、米国の対中貿易赤字を是正する始まりに過ぎないというトランプ大統領の考えが想像できる。だから、一律関税なのだ。
一方、中国が報復したのは一律ではなく、限定関税だ。上述のように、中国は幅広い米国製品に関税発動を発表したが、それは一部の輸入品を標的とした限定的なものだ。ここから感じられるのは、中国が置かれている厳しい現状だ。不動産バブルの崩壊や若者の高い失業率、鈍化する経済成長など、習政権は多くの経済的難題に直面し、その不満や怒りの矛先が自分たちに向けられることを恐れる。その状況で、トランプ関税の嵐に直面することは避けたいのが本音であり、まずは限定的な報復関税に抑えることで、米国との貿易摩擦を可能な限り最小化したい狙いが見え隠れする。
また、中国は今回のケースで米国をWTOに訴えるとしたが、この狙いは保護主義を強めるトランプ政権こそが世界経済への脅威であると強調し、欧州や日本を米国から切り離し、ロシアやインド、グローバルサウス諸国との間で安定的な経済関係を維持、強化したいという狙いがあろう。第2次トランプ政権が発足して最初の応酬となったが、“勝敗”の行方が見えるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
(北島豊)