米中貿易戦争の行方…トランプ関税145%でチャイナタウン消滅危機

「私は90日間の相互関税の一時停止し、税率を10%に引き下げることを許可した」

 日本時間4月9日午後2時過ぎ。突如、「相互関税」の上乗せ分について、「90日間停止する」と表明したトランプ米大統領。ベッセント財務長官はその理由を、「75か国以上から交渉の申し入れがあり、誠意をもって交渉に臨みたいため、個別の交渉に時間がかかる」と説明しているが、この決定を受けニューヨーク市場では、ダウ平均株価が過去最大の上げ幅を記録。日経平均株価も一時2900円以上値上がりと史上2番目の上げ幅を記録するなど、証券会社には、朝から買いの注文が殺到した。

 今、世界はまさにトランプ氏の一挙手一投足に振り回されていると言っても過言ではないが、突然の方向転換の裏には、いったい何があったのか。多くの専門家らはその背景を、ニューヨークダウ平均株価の大幅な下落など、アメリカ国内に不安が広がったことによる影響、と指摘しているが、

「トランプ自身、『皆がちょっと怖がってきていた。少し行き過ぎていると思った。ビクビクしていた』と説明、各国をディールのテーブルにつかせたことで、ひとまずは思惑通りの結果が得られたというところでしょう。ただ、相互関税実施を発表以降、経済の不透明感が一気に強まり、株式や通貨だけではなく債券まで売られるトリプル安まで発生。米財務省内でも経済への悪影響が想定よりも大きいのではないか、との懸念が広がった。また金利の上昇により、住宅ローン金利や企業の資金調達コストなども上昇。長年、不動産事業に携わってきたトランプとしては、金利上昇が企業の借入に与える影響を重々理解している。そのあたりが方向転換した要因ではないかとされています」(経済部記者)

 結果、90日間の関税停止発表直後には、株式相場は急回復。9日(現地時間)の取引で、S&P500種株価指数が9.5%上昇するなど、世界金融危機以来の大幅高で終えることになった。

 ところが、一難去ってまた一難。トランプ氏が課す84%というとてつもない関税に屈することなく、同様に84%の報復関税を打ち出していた中国に対し10日、トランプ氏が関税率を125%に引き上げると表明したのである。すると、市場には中国との貿易戦争過熱への警戒感が強まり、売り注文が殺到。さらにホワイトハウスにより、中国に対しアメリカが課す関税率が合計145%(合成麻薬の流入を理由として、3月までに発動した20%の関税を追加)になったとの発表を受け、売り注文が加速することになった。

「米中の間で報復の応酬がエスカレートする中、トランプは『中国は倍にしてやった。報復してきたからね。どうなるか見ていこう。素晴らしい結果になると思う』などと相変わらず強気の態度を見せていますが、中国もここで折れればアメリカから完全に弱腰に見られ、いっそうの要求を許すことになる。そのため、今後はどちらがどんな利益を得られるのか以上に、どちらがより痛みに耐えられるかというウエートが大きくなる。長期の経済的な痛みが継続する可能性も否定できないということです」(同)

 アメリカ国内の主要都市には、必ずと言っていいほどチャイナタウンが存在するが、これらの街では、中国からの安価な輸入品を販売、または中国産食材を使った飲食店が多い。しかし、トランプ関税の煽りを受け中国製品を輸入できなくなれば、商売が成り立たず、締める店も増えるだろう。つまり報復の応酬が続けば、米国中に点在するチャイナタウンの存続そのものが危ぶまれる可能性が高い。むろん、両国ともに落とし所は模索しているのだろうが、この引くに引けない駆け引きの行方は…。

(灯倫太郎)

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