米中貿易戦争が再び世界を震撼させている。トランプ大統領が繰り出した「相互関税」は、まるで火に油を注ぐような勢いで国際経済を揺さぶっている。中国への関税は最大145%、さらに対米貿易黒字国に一律10%の基本関税を課すなど、その規模と大胆さは前代未聞だ。1期目の貿易戦争も激しかったが、今回の戦いは何が違うのか。経済の地殻変動を招くこの闘争の核心に迫る。
1期目との最大の相違点は、関税の「普遍性」と「戦略性」にある。1期目では中国だけが主要な標的だったが、今回は日本、欧州、アジア諸国など約60カ国・地域に上乗せ関税を課す「相互関税」を採用。トランプはこれを「米国の製造業復活」と「貿易赤字の根絶」に直結する切り札と位置づける。ウィルバー・ロス元商務長官は「中国を孤立化させるプロセス」と述べ、世界貿易の枠組みを再構築する意図を匂わせた。だが、この無差別攻撃は同盟国との摩擦も生み、日米関係やEUとの協調にも暗雲を投げかけている。1期目が「中国包囲網」の色彩を帯びていたのに対し、今回は「米国第一」を突き詰めた孤立主義の色合いが濃いのだ。
もう一つの違いは、経済環境の変化だ。1期目の貿易戦争は、米経済が比較的安定していた時期に仕掛けられた。対して今回は、コロナ後のインフレ、ウクライナ紛争の余波、エネルギー価格の高騰が世界を覆う。トランプ関税の発動直後、株価指数先物は急落、ドルは下落し、金価格は過去最高値を更新した。専門家は「2~3カ月後に企業倒産が続出する」と警告し、世界経済への打撃は一期目をはるかに超えると予測する。中国側も、習近平政権下で国内経済の自立を強化しており、1期目のような「耐える戦術」から「徹底抗戦」にシフト。王毅外相は「米国が抑圧するなら、どこまでも付き合う」と啖呵を切った。この意地の張り合いは、妥協の余地をさらに狭めている。
さらに、トランプの政治的動機も異なる。1期目は再選を意識した「パフォーマンス」の側面が強かったが、2期目は「歴史に名を刻む」執念が垣間見える。90日間の関税停止措置を発表したのも、金融市場の動揺を抑えるための戦術的後退にすぎず、中国への追加関税はそのままエスカレート。トランプは自らを「貿易戦争の将軍」とでも思っているかのように、果敢に戦線を拡大している。だが、この強硬姿勢は国内でも賛否両論だ。消費者物価の上昇懸念や、サプライチェーンの混乱が現実味を帯びる中、米国民の支持がどこまで持続するかは未知数だ。
1期目の貿易戦争が「試運転」だったとすれば、2期目は「本番」だ。関税の規模、対象の広さ、経済環境の厳しさ、両国の対抗意識の激しさなど、すべてがスケールアップしている。しかし歴史が示すように、保護貿易はしばしば大恐慌や経済停滞の引き金となる。
トランプの賭けは、米国を「再び偉大に」するのか、それとも世界経済を奈落に突き落とすのか。答えはまだ見えないが、この戦いの余波は、すべての国に及ぶだろう。
(北島豊)