2月でロシア軍の侵攻から丸3年を迎えようとしているウクライナ。同国西部などの国境地帯では依然として激しい攻防が続いており、泥沼化の様相を呈している。
一方、首都キーウなど前線から離れた場所は日常を取り戻しつつあるが、電力不足による計画停電は日常化。しかも、散発的なドローンやミサイルによる攻撃は現在も続いており、常に恐怖と隣り合わせの状況だ。
そうした中、実在するウクライナ人が体験した話を漫画にして現地の子供たちに読んでもらおうというプロジェクトが進められている。主人公は兵士として最前線で戦っていたナザール・グラバーさん。一緒に従軍していた兄のイリヤさんは凶弾に倒れ、自身も負傷。退役後に子供たちを支援する団体を立ち上げ、その活動の一環が今回の漫画化だ。
タイトルは「九転十起(キーウ テンジッキ)」。作画は国際漫画コンテスト入賞歴を持つ美大生の福原恵さん、翻訳はグラバーさんの支援団体が担当。全10話の予定で、ウクライナのすべての小学校に届けるのが目標だという。
「もともとウクライナには、日本のアニメや漫画に興味のある人が多い。22年夏に日本人漫画家・松田重工氏が描いた『キエフの幽霊』は、ウクライナ軍のザルジニー総司令官(※当時)や在日ウクライナ大使館もSNSで紹介。現地でもベストセラーを記録しています」(ウクライナ事情に詳しいジャーナリスト)
他にも22年11月には、避難民のウクライナ人留学生が翻訳協力したイベント「J-Anime Stream for Ukraine」でウクライナ語版字幕付きの「ルパン三世 カリオストロの城」と「サカサマのパテマ」のアニメ映画2作をオンライン上映。さらに24年7月からは同国の公共放送局「ススピーリネ・クリトゥーラ」で、往年の名作アニメの続編シリーズにあたる「ハクション大魔王2020」の放送が開始された。
「特に『九転十起』は今を生きる等身大のウクライナ人を描いたオリジナル作品。漫画なので子供たちにも読みやすいですし、大変素晴らしい取り組みだと思います」(同)
同作で主人公は、戦争という厳しい状況の中でも前向きに生きようとしている。ウクライナの子供たちにとってこの漫画が希望の道しるべとなることを祈りたい。