佐藤優「ニッポン有事!」大学教育にも新自由主義の嵐 名桜大学名誉博士授与で考える

 個人的なことで恐縮だが、とても嬉しいことがあった。2024年12月23日、名桜大学から名誉博士の称号を授与された。

 名桜大学の名誉博士の称号授与は筆者が2件目だ。1件目は、小和田恆氏(元外務事務次官、皇后陛下の父親、2023年9月15日)である。

 筆者は作家として、大宅壮一ノンフィクション賞、毎日出版文化特別賞、新潮ドキュメント賞、有識者として安吾賞、菊池寛賞などを授与されているが、今回の名桜大学からの名誉博士称号はこれらの賞とは質を異にするものだ。教育における筆者の活動を名桜大学が評価してくれたことをとても嬉しく思う。

 この日は名桜大学の新本部棟の落成式があった。名桜大学は沖縄本島北部12市町村と沖縄県の出資による公設民営の大学として1994年に設立、2010年に公立大学に移行した経緯がある。

 日本に公立大学は101校ある(国立大学85校、私立大学622校)。学生数2263人の名桜大学は規模からすると公立大学では上位11番目に位置する。にもかかわらず、沖縄ですら名桜大学の特徴がよく知られていない。まず、教育の内容が優れていることだ。現在、高校が文科系、理科系に分かれているために、文科系の学生は数学、理科系の学生は英語を十分に習得できていない事例がある。

 また、中学と比較して高校になると、数学と英語が極度に難しくなる。そのため英語と数学の双方に苦手意識を感じている学生が少なくない。特に数学に関しては、名桜大学だけでなく、筆者の母校で客員教授をつとめている同志社大学でも中学レベルの数学に難のある学生がいる。これは学生が悪いのではなく、文科系の大学入試で数学力が問われないために起きている構造的問題だ。名桜大学では、新入生の数学と英語の学力をチェックし、欠損を確実に埋めるカリキュラムが組まれている。

 就職時にはSPIと呼ばれる適性検査が課されることが多いが、半分近くが中学生レベルの数学だ。このレベルの数学を修得できていないと就職の可能性が狭められる。名桜大学ではきちんとした体制が組まれている。

 留学に関しても、カナダでは学費が年額800万円くらいかかる。名桜大学の学生に関しては、規定の53万8000円を納めれば、カナダでの授業料が免除される。通常、留学期間は1年なので、800万円の無償奨学金を受けるのと同じ効果がある。沖縄の高校生には県内の大学に進学すると、世界が狭くなるのではないかと心配する人もいる。名桜大学に在学しながら東京の大学で学びたいという人にはそのニーズに応えることができる制度がある。例えば、桜美林大学に1年間国内留学できる仕組みがある。

 大学にも新自由主義の嵐が押し寄せてきている。地域の力によって、格差社会に抗して、能力のある若者に学びの機会を与えている名桜大学の教育を今後も筆者は応援していきたい。

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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