佐藤優「ニッポン有事!」一人の大富豪が親米or親露決定 ジョージア内政混乱の真相

 2024年12月14日、旧ソ連邦構成国だったジョージア議会が与党候補のミハイル・カベラシビリ氏を大統領に選出した。カベラシビリ氏は元サッカー選手としてジョージアでは有名だ。同月29日に就任する予定だ。

 この選挙結果に対して不満を持つ親欧米派の市民が連日、大規模なデモを展開している。サロメ・ズラビシビリ大統領は自らを抗議運動のリーダーだと位置付け、任期終了後も大統領職にとどまると述べた。EU諸国の多くが大統領選挙の結果を認めないと表明している。

 しかし、ジョージアの政争を親ロシア派対親西欧派という図式で見ると事柄の本質を見誤る。ジョージアの政治で最も重要な人物は、12年以降、この国の実権を握っている大富豪のビジナ・イワニシビリ氏(与党「ジョージアの夢」創立者。元首相)だ。24年7月に朝日新聞の中川仁樹記者がイリア国立大学(ジョージア)のチャールズ・フェアバンクス・ジュニア教授からイワニシビリ氏に関する貴重な情報を得ている。

〈─与党創設者のイワニシビリ氏はロシアで富豪になりました。もともと親ロシア的な姿勢だったのでしょうか。

「ジョージアの夢は18年ごろまでリベラルで親欧米に見え、その突然の変化に多くの人が驚かされた。さらに、22年のロシアのウクライナ侵攻開始後も激しく変化した。イワニシビリ氏は、ロシアが戦争に勝ち、(プーチン大統領とも関係を維持していた)米国のトランプ前大統領が再び大統領に選ばれると思っている節がある」〉(5月29日〔7月12日更新〕「朝日新聞デジタル」)

 イワニシビリ氏は、ソ連崩壊前後の混乱期にロシアで巨万の富を築いた。12年に同氏が「ジョージアの夢」を創設したときは、親欧米的路線を取っていた。それが変化したのは16年頃からで、徐々に立場をロシア寄りに変えていく。22年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、イワニシビリ氏はロシアに接近する路線を明確にする。ロシア・ウクライナ戦争でロシアが勝利すると考え、勝ち馬に乗る方が自らのビジネスにとって有利とイワニシビリ氏が判断したからだ。24年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利したことにより、イワニシビリ氏は自らの判断が正しかったという確信を強めたのだと思う。

 イワニシビリ氏は、人権や民主主義という価値観には関心がない。所与の条件下で、自らの資産を保全し、ビジネスをし易い安定した環境を作ることしか考えていない。イワニシビリ氏は自らの事業にとって親欧米派のほうが都合が良ければそういう政治家を、親ロシア派が都合が良ければ今回のカベラシビリ氏のような人を据えているに過ぎないのだと筆者は見ている。ジョージアは、一人の大富豪が政治にも経済にも軍事にも強い影響を与えている特殊な国なのだ。親欧米VS親ロという二分法を持ち込むとこの国の政治構造を見誤る。

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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