今から20年以上前、昼のワイドショー(テレビ朝日系)にレギュラー出演していたことがある。当時はあまり注目されていなかった医療費の問題を集中して取り上げ、沸き上がった不安や疑問を小泉純一郎厚生大臣=当時=にインタビューした。
メインの内容は、高額療養費の引き上げを行う可能性はどれだけあるのか? 健康保険制度で一番大切なのが、この高額療養費制度だと思っていたからだ。
いろんな角度から食い下がったが、小泉大臣にはうまくかわされた。が、その話しぶりから「高額療養費の引き上げ、負担増の可能性は十分ある」と判断した。そしてその後、大幅な引き上げが実施されたのだ。
そもそも高額療養費制度とは何か?
去年話題になった薬の1つに、初期のアルツハイマー病に効果が認められた世界初の薬が国内で承認された。しかし、その薬を常用すると、その負担は年間で数百万円にも上る。これを自費負担するとなると払える人は圧倒的に少なくなる。ガンや慢性病など、治療のために必要な医療費も長期となれば、負担できる人とできない人が出てきてしまう。保険治療で3割負担であったとしてもだ。
現役世代や現役と同じくらい稼いでいる高齢者などが払う医療費の自己負担分は3割だが、毎月の負担の上限額は決められている。これが高額療養費制度で、その上限額は年収によって変わる。
例えば70歳未満で、年収370万円から770万円の場合は、1カ月に負担する上限は8万円と少し。年収370万円までなら5万7600円、住民税非課税世帯は3万5400円という具合だ。
仮に1カ月で必要な医療費が100万円だったとすると、3割負担なら本来は30万円を払う必要があるのだが、年収370万円から770万円の場合は、8万7430円となる。
先ほど説明した「8万円と少し」の少しとは、1カ月の医療費26万7000円までは3割負担で8万100円なのだが、26万7000円を超えた分については1%分を加算して負担しないといけない。なので医療費が100万円なら、1カ月あたりの負担額は8万7430円になるわけだ。
ちなみに、年収770万円から1160万円までで3割負担の場合は、月の医療費が55万8000円までは16万7400円になる。
さらに、この高額療養費を年間で3カ月以上支払う必要が出てきた場合、4カ月目からはさらに安くなる。年収370万円から770万円の場合は、月あたり4万4400円。色々と細かなルールや例外規定などもあるが、おおよそこのように覚えておけば安心だろう。
かつて小泉大臣にインタビューした後、自己負担限度額は上がってきていて、そして今、また上がるという。特に「収入の多い人には、もっと払ってもらおう」と、現在、厚労省が検討中で、収入の高い人の負担は驚くほど高くなる可能性があることも漏れ聞こえる。
それどころか、収入の低い人、例えば住民税非課税世帯の負担まで上げようというのだ。
ただ、収入の少ない住民税非課税世帯には2通りある。生活のために一生懸命働いても給料が安く、住民税が非課税世帯になっている人と、もうお金は十分に持っているので働かず、隠居生活をしている人だ。日本の多くの制度は、この2通りの人を同一に扱っている。おかしな話である。
日本の制度は収入や所得によって区別するが、資産の多寡についてはほとんど配慮がない。私は、前者は自己負担を増やすのではなく、減らす方向で、後者の場合はもっと多く払うべきではないかと思っている。
増大する医療費をどう負担すべきか。国民皆保険制度を守るためにも、現在、負担のあり方を見直すことが求められている。与野党伯仲の今こそ、党利党略ではなく、すべての政党の政治家が知恵を出し合って考えてもらいたい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。