「俺が大統領になるまでに終えろ」イスラエル・レバノン停戦合意裏にトランプ氏の“威圧”

 あまりにも突然の「停戦合意」発表だった。11月26日、バイデン米大統領はイスラエルとレバノンが「停戦」を受け入れ、翌27日午前4時から「停戦」が発効すると発表した。

 今般の停戦期間は60日間だというが、レバノン軍と治安部隊が統制を取り、イスラエル軍がレバノン南部から撤退することで、双方の民間人が自宅に戻れることになった。

 昨年10月、パレスチナの武装組織ハマスによる奇襲に端を発する、イスラエルとヒズボラとの交戦は実に13カ月にも及び、レバノン軍の死者はおよそ4000人。負傷者も1万5000人を超えるとされ、イスラエル軍にも数千人の死者が出ていると伝えられていた。

 バイデン氏の合意発表に先立ち、テレビ演説に臨んだイスラエルのネタニヤフ首相は、ヒズボラのナスララ最高指導者をはじめ多くの幹部を殺害、相当数のインフラも破壊したことで、「1年が経過し、ヒズボラはすでに以前のヒズボラではない。戦闘力は数十年前にまで弱体化した」と、その成果を声高に強調したが、

「確かにイスラエルの攻撃によってヒズボラが壊滅的なダメージを受けたことは事実。ただ、ヒズボラも交戦勃発から13カ月間、連日20発以上のミサイルを撃ち続けてきたことで、イスラエル北部住民6万人が避難を余儀なくされることになったわけですからね。イスラエル側兵士も戦闘が1年を超え、体力気力ともに消耗していることもあり、今回のアメリカの仲立ちによる停戦は、兵士を休息させ装備補給ができる最高のタイミング。イスラエル側にとってのメリットは大きいでしょう」(中東問題に詳しいジャーナリスト)

 とはいえ、このあまりにも突然のタイミングは何を意味しているのか。それが、来年1月20日から米大統領としての職に就くトランプ氏からのプレッシャーだったのではないかと言われている。

「ネタニヤフ氏としては、バイデン氏から再三、戦線拡大に対する批判を受けていたことで、どのタイミングでこれに対応すべきか、決断に迫られていたはずです。そんな中、バイデン氏よりはるかに関係が近いトランプ氏の大統領就任が決まった。ネタニヤフ氏にすれば、トランプ氏が大統領になればガザ地区での戦後処理が有利に動くと考えていたはず。トランプ氏自身も『俺が大統領になる前に戦争を終わらせろ!』と言っていたそうで、ならば、トランプ氏の大統領就任前に形の上だけでも事態を鎮静化させておきたい、と考えたのではないでしょうか。その証拠に、停戦期間60日というのは、まさにトランプ氏が大統領就任するまでの期間。つまり、トランプ氏の存在そのものが、劇薬となったとも考えられます」(同)

 ただ、武装組織ヒズボラのバックにはイランがいることから、今後、イラン側が対トランプ対策に乗り出すことは必至だ。さらに、今回の「停戦」は、レバノンについてのみ。そのため、シリアへの攻撃継続もありうるため状況が悪化する可能性は捨てきれない。

 当然、ガザでは現在もなお、ハマスの残党が蠢いている。ネタニヤフ氏は停戦合意発表後、ユーチューブで停戦を決定した理由を説明しているが、「ヒズボラなどが合意を破った場合は、イスラエルには国際法にのっとった自衛の権利がある。先方が攻撃を仕掛けるなら、我々は反撃する」と明言している。

 この60日間の停戦ではたして中東情勢解決の糸口が掴めるのか。水面下での攻防戦がよりヒートアップすることは間違いない。

(灯倫太郎)

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