8月25日早朝(現地時間、日本時間同日午後)、レバノン南部に拠点を置くイスラム教シーア派武装組織ヒズボラがイスラエルを本格的に攻撃した。
ヒズボラとイスラエルの戦闘が激化し、イランが実質的に参戦すると、中東全域を巻き込む戦争に発展しかねない。
筆者は、25日21:11(イスラエル時間15:11)にテルアヴィヴ在住の元モサド(イスラエル諜報特務局)高官と通信アプリで意見交換をしたので、そのやりとりを紹介する。
─今朝、ヒズボラが320発以上のロケット弾や攻撃用無人機でイスラエルを攻撃したという報道に接した。情勢はどうなっているか。
「事態はイスラエルの統制下にある。今朝のヒズボラによる攻撃を、イスラエルは事前に察知し、ほぼ無害化することに成功した。今回は、イスラエル・インテリジェンス機関の完勝である」
─ヒズボラの狙いはレバノンと隣接するイスラエル北部やゴラン高原だったのか。それともテルアヴィヴを狙っていたのか。
「今回、ヒズボラの主目標は、佐藤さんが訪問したことがあるモサドのシギントセンター(シギント=傍受による諜報)だった。イスラエルの複数のインテリジェンス機関が約3週間前にヒズボラの攻撃に関する正確な情報を入手した。その後、政府、軍、インテリジェンス機関が連携して入念な対抗策を練った。ミサイル発射施設の移動についても、さまざまな手法によって正確な情報を摑んでいた」
この元モサド高官が言う「さまざまな手法」には、人(スパイ)を用いて秘密情報を入手するヒュミントも含まれる。
─それで事前にイスラエル空軍がヒズボラの拠点を攻撃できたのか。
「そうだ。ヒズボラの攻撃の30分前に、イスラエル空軍がヒズボラのミサイルとドローンの発射拠点を空爆し、その大部分を破壊した」
─シギントセンターに対する攻撃もあったのか。
「数機のドローン(攻撃用無人機)が、モサドのシギントセンターに接近したが、全機撃墜した」
─イスラエル側にも被害が生じたのか。
「ヒズボラのロケット弾が北部地域に着弾したが、被害は軽微である。明日以降もヒズボラの攻撃はあり得るが、イスラエル側は事態を統制下に置くことができると楽観している」
ヒズボラは、功を焦ったので、今回の攻撃でイスラエルにほとんど打撃を与えることができなかった。イランと綿密に協議した上で、ヒズボラがイラン・イスラム革命防衛隊(正規軍より強い)軍と共同してイスラエルを攻撃していたならば、結果は異なっていたかもしれない。
去年10月7日に発生したイスラム教スンナ派武装組織ハマスによるイスラエルへの攻撃をモサドは予測できなかった。対して今回のヒズボラによる攻撃に関して、モサドはそのインテリジェンス能力を十二分に発揮した。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。