佐藤優「ニッポン有事!」モサド元高官に聞くレバノン侵攻 イランと米国介入の最悪予測

 中東情勢を大きく変化させる事件が起きている。イスラエルが、レバノン南部に拠点を置くイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに対する本格的な壊滅作戦を開始した。まず、9月28日、ヒズボラの最高指導者ナスララ師を中立化(殺害)した。筆者は、同日モサド(イスラエル諜報特務局)の元高官と秘匿度の高い通信アプリでこんなやりとりをした。

─このタイミングでナスララ師の殺害を決行した理由はなぜか。

「イスラエルとヒズボラの軍事的応酬が過去数日間で、加速度的に激化してきた。イスラエルとしては、このタイミングで『とどめを刺す』のが適当だと判断した。そこでナスララを中立化(殺害)する作戦に踏み切った」

─ナスララ師は、イスラエルによる追跡を恐れ、人前に姿を現さず、通信機材を遠ざけていたという。よく見つけることができた。

「蛇の道は蛇だ。種々の手法のインテリジェンスによってナスララの居場所を正確に掴んだ上で、そこに1トン爆弾を80発以上投下し、目的を達成した」

─ガザ地区におけるハマスとの二正面作戦にイスラエルは持ちこたえられるのか。

「既に持ちこたえてきた。去年10月7日、ハマスがイスラエルを攻撃した後、われわれはヒズボラに理解できる形で北部での戦闘のレベルを今以上に上げないシグナルを送ってきた。にもかかわらず、ヒズボラは攻撃を激化してきた。イスラエルとしては、ヒズボラのロケットとミサイルの発射施設を徹底的に破壊することを決定し、既に目標を80~90%達成した。そして、ヒズボラの第一線の戦闘員と指揮官の戦闘能力をポケベル爆弾とトランシーバー爆弾によって失わせた。そして、総仕上げとしてテロリスト集団の首魁であるナスララを中立化(殺害)した。ここまでは、イスラエルの描いたシナリオ通りに進んでいる」

 10月1日、イスラエル軍が北隣のレバノン領内で限定的な地上作戦を開始したと発表した。イスラエルに敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを軍事的に無力化することが目的だ。ヒズボラを支援しているのがイランだ。イスラエルは、イランが本格的に軍事介入してくることはないと見ている。その根拠は、イスラエルがイランの核開発施設の所在を把握し、それを破壊する能力があるからだ。イスラエルはこの事実をさまざまなチャネルでイランに伝えている。

 他方、イランが核開発施設の保全よりもシーア派同胞であるヒズボラを守るという選択が完全に排除されているわけではない。イランが地上戦に介入した場合、イスラエルは国家存亡の危機に立たされる。その場合、米国がどう対応するかが鍵になる。米国はイスラエル国家と同国に住むユダヤ人を擁護するために、地上戦に踏み切ると筆者は見ている。そうなると第三次世界大戦の火蓋が切られる可能性がある。世界大戦だけは何としても避けなくてはならない。

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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