11月15日を最後に、熊本県の鉄道、路線バスを運行する5社がSuicaやPASMOなどの全国交通系ICカードによる決済の廃止に踏み切った。これまで利用エリアの拡大を続けていただけに、今回の廃止は全国ニュースでも報じられている。
そもそも利用停止の決断に至った最大の要因は、約12億1000万円という高額な決済用機器のシステム更新費用と言われる。加えて、各社ともにかねてより厳しい経営を強いられていたことも大きい。なお、全国交通系ICカードの代わりに導入されるのが、クレジットカードやデビットカードのタッチ決済。こちらの費用は約6億7000円とほぼ半額で済むという。すでに九州産交バスでは一部の車両に設置されており、順次導入の予定で、他の交通各社も25年3月上旬から利用できるようになる見通しだ。
全国交通系ICカードを廃止したのは、熊本が初めて。だが、地方の鉄道・バスの事業の中には最初から導入していないところも多い。過去に導入を検討したことがあるバス会社の幹部は、「やはりコストがかかりすぎる。弊社の経営規模に見合わなかった」と話す。
「全国交通系ICカードの利用者の大半は、大都市圏に住んでいる人たちです。旅行客は廃止になったことで不便を感じても、地元の人にはそこまで影響はありません」(キャッシュレス事情に詳しい全国紙記者)
熊本の5社による「クレジットカード等のタッチ決済機器導入について」というリリースによると、昨年度における利用者の支払い方法の内訳を公表。各社のみで使える「くまもんのICカード」が51%で、現金その他が25%、全国交通系ICカードは24%となっている。乗客の半数が利用するくまもんのICカードは、今も使えるので問題ない。
「それにクレジットカードで決済できれば困りませんし、外国人観光客にとってはむしろ便利。実際、首都圏や関西の私鉄では導入が進んでおり、JR九州でも実証実験を行っています」(同)
こうなると懸念されるのは、地方での全国交通系ICカード離れだが…。
「どちらの業界も経営が厳しいところばかり。システム更新費用の大幅値下げなどをしなければ、追随する企業が出てくる可能性はあるでしょうね」(同)
利用者にとっては便利でも、地方の鉄道・バス会社にとっては、必ずしも歓迎すべき状況ではないのだ。