北朝鮮の人民軍11軍団、通称・暴風軍団は、69年に創設された特殊8軍団が母体となる精鋭部隊だ。その特殊8軍団は、68年に韓国国民を震え上がらせた青瓦台(韓国大統領府)襲撃未遂事件を主導した第124部隊を中心に結成された。
韓国の特殊戦司令部と役割は似ていると言われるが、兵力の規模は4万〜8万人とはるかに大きく、歩兵や狙撃、有事の際には韓国に侵入して攪乱作戦を行う部隊など、多岐にわたって特殊任務を遂行する。
北朝鮮国内でも、誰も逆らえない存在だと韓国在住のジャーナリストは明かす。
「朝中国境地域に配置された国境警備隊が金銭をもらって密輸や脱北を見逃していたため、金総書記は暴風軍団を派遣。即決処刑権とともに、すべての軍部隊を検閲できる権限を与え、恐れられています」
とはいえ明確な実戦経験がないため、韓国内で戦力は未知数という見方もある。だが、村上氏は脅威についてこう指摘する。
「そもそも朝鮮人民軍は、朝鮮戦争で培われたゲリラ戦の経験値が高いんです。米軍を中心とした国連軍の参戦で退却を余儀なくされましたが、取り残された部隊が韓国内にいくつかありました。そこで白旗を上げずに、山岳部隊として韓国にいる北朝鮮シンパと連携を取り、ゲリラ戦で飜弄しながら抵抗を続け、韓国軍の掃討作戦が終了したのは、朝鮮戦争が休戦してから10年後のこと。ロシアへの派兵でも、引き継がれたゲリラ戦のノウハウが生かされると思います」
昨年3月には、米韓の軍事演習に憤怒した80万人の若者が入隊や復隊を志願したと、北朝鮮メディアは報じている。金総書記の下で一枚岩の士気の高さを喧伝したいのだろうが、朝鮮半島事情に詳しいジャーナリストの五味洋治氏の見方は少々異なる。
「朝鮮人民軍の総兵力は約128万人とされる中、一気に80万人も集まるとは思えません。結束をアピールするのは、軍の内部が乱れている証拠。メディアを使って引き締めたのです」
恐怖政治でも支配できなくなるほど深刻なのは、慢性的な食糧不足と絶え間ない韓国文化の流入だ。
「軍隊にも食糧支援が行き届いておらず、150〜160センチと身長が低く、体重も50キロ台の兵士が多いんです。韓国のエンタメに住民が影響されることにも神経を尖らせ、20年に『反動思想文化排撃法』という法律を制定して取締りを強化。脱北者の証言で公開処刑された住民も明らかになりましたが、あまり効果はなく、北朝鮮の将校と韓国人女性のロマンスを描いたドラマ『愛の不時着』は、北朝鮮国民の半分が隠れて見たという話も。若者の韓国への憧れに歯止めが利かなくなり、忠誠心が薄れています」(五味氏)
さすがに暴風軍団まで韓国文化にどっぶり浸かっているとは思えないが‥‥。
いずれにしろ、不気味な存在の精鋭部隊の投入で、ウクライナ戦争は新局面に入った。もはや何が起きてもおかしくない状況で、世界に緊張が走っている。
*週刊アサヒ芸能11月7・14日号掲載