東京電力福島第一原発の処理水が海に放出され始めてから、8月24日で1年が経過した。処理水を「核汚染水」と非難し、報復措置として日本全国の水産物や水産加工品の輸入を全面禁止している中国政府は23日の記者会見で「食品安全と人々の健康を守ることは、合理的で必要な措置だ」と従来の主張を繰り返した。
1年前の報復措置を受け、中国の海鮮市場や料理店からは「日本産」を書かれた水産物は姿を消した。だが、それはあくまで表向きの話。実は、根強い日本産水産物人気を背景に、中国では現在も当たり前のように日本の海産物の闇取引や密輸が横行しているとされる。
中国の事情に詳しいジャーナリストが語る。
「政府は違反者を見つけた場合、法に基づき厳しく処分すると発表している。水産物を扱う業者によれば、違反した場合は即刻営業許可がはく奪され、悪質な場合は逮捕もあり得るのだとか。今回の禁輸措置には、処理水の放出以前に日本から輸入していた水産品も含まれていることから、在庫を抱えていても販売ができない。つまり業者は大なり小なり、行き場をなくした在庫を抱えることになった。それを処分するため、闇取引きが横行しているというわけです」
一方、密輸の背景にあるのが、中国における日本産水産物の衰えないニーズだという。なかでも、中国で日本料理店を営む経営者からは、「高値でも構わないからこちらに回してもらえないか」といった要望が後を絶たず、密輸業者としてはまさに稼ぎ時。多少の危険を冒しても、密輸すれば大半がはけてしまうため、こちらも闇ルートでの密輸が急増する結果になっているようだ。
現在、スタンダードな密輸方法とされるのが、海産物をいったん北海道産に送り、そこから北朝鮮経由で運び、ロシア産のラベルに貼り替えられて中国に持ち込むという手口。南で獲れた魚は韓国経由で持ち込むケースも少なくないという。
「ただ、日本食を食べ慣れている富裕層のなかには、ひと口食べただけで日本で獲れた新鮮な魚か、そうではないかが分かる口の肥えた客も少なくないといいます。店側としても、そんな上客から要望があれば、金はいくら払うから日本産を、ということになる。そのため、近年では手間のかかる間接的な密輸ではなく、リスクを承知の上で一獲千金を狙い、直接輸入するバイヤーも急増。今後も手を変え品を変えての輸入が横行することでしょう」(同)
一方、そんな中国では2011年の福島原発事故以降中断していた新規の原発建設を19年に再開。同年には6基、22年と翌23年にはそれぞれ10基と、新規承認の規模を拡大した。さらに20日付けの国営新華社通信によれば、中国は今年、新たに5つの新規原発プロジェクトを承認。計11基の原発を追加で建設することに明らかにしたことが報じられた。
「同通信は2030年には中国が世界最大の原発保有国になると報じていますが、裏を返せばそれだけ災害のリスクも増えたということ。そんなことから、中国の原発専門家の中には、日本に対する禁輸措置がブーメランにならなければいいが、という声もあります」(同)
「核汚染水」へのリスクが高まる中国からの禁輸措置の出口は、まだまだ見えそうにないようだ。
(灯倫太郎)