パリ五輪が、いよいよ7月26日(日本時間27日)に開幕する。オリンピックは「平和の祭典」と呼ばれ、五輪憲章には、国籍や文化、宗教などあらゆる違いを超えて集い、公平なスポーツで競い合うことを通して互いへの理解を深め平和な社会の実現に貢献する、という旨の理念が掲げられている。とはいえ、理想と現実が異なるのが実社会だ。ここ数年、世界の国際情勢は大きく様変わりし、ロシアによるウクライナへの侵攻やイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に端を発した中東情勢の悪化等々、オリンピックの理念とは裏腹な状況が続いている。
当然のことながら、そんな中で噴出しているのが、戦争をする国の選手をはたして「平和の祭典」に参加させるべきか否かの議論だ。
22日、パレスチナオリンピック委員会(POC)はIOCのバッハ会長宛てに、イスラエルの出場を禁止するよう求める書簡を送ったことを明らかにした。一方、イスラエルオリンピック委員会(OCI)会長は報道陣に対し、自国の選手88人がパリ五輪に参加することになったことを「勝利」とし、「我々の最初の勝利は、ここにいて出発すること、そして(昨年の)10月7日以降、数百もの大会に参加し続けていることだ」と強調。この発言にパレスチナ側が怒りをあらわにしたことは言うまでもないだろう。
さらに翌23日には、イラン外務省がXを通じ、「罪のないガザ地区住民と戦争を行うイスラエル側はパリ五輪に参加する資格がない」と公式コメントを発表。続けて「アパルトヘイト(人種隔離政策)であり、テロリストであるシオニズム政権代表団を受け入れて保護するということは、児童殺害者に合法性を付与するということ」と痛烈な批判を展開したことも現地メディアにより報じられた。
「今回、パリ五輪に出場するイスラエル選手団には、2021年の東京五輪でテコンドー女子49キロ級で銅メダルを獲得したセンバーグ選手ほか、体操男子の種目別ゆかでイスラエル体操史上初の金メダルに輝いたドルゴピャトも出場を予定しています。一方、パレスチナ選手はボクシング、柔道、テコンドーなどの種目に8人が参加する予定ですが、ガザでの死者数と人道危機に対する国際的な怒りが高まっている中での大会参加ですからね。当然、大会委員会としても警備の強化を図っていますが、始まってみないことには何が起こるかわからない。何か起これば、それこそフランスのセキュリティーの甘さが世界に露呈するとあって、マクロン大統領指揮下、万全の警備態勢で臨んでいます」(スポーツジャーナリスト)
そんなマクロン氏は、国営メディアのインタビューに対し、「ロシアとイスラエルは状況が違う」として、「ガザ地区戦争はウクライナ戦争と違って侵略戦争ではない」という立場を示しているが、ロシアとウクライナ同様、2者が敵対していることは明らか。
「パレスチナ問題を巡っては、1972年のミュンヘン大会で、『黒い九月』を名乗るパレスチナの武装組織が、政治囚の釈放を求めて選手村を襲撃。イスラエルの選手やコーチら11人が死亡するという悲劇も起こっています。そんなこともあり、以前からイスラム教徒が多い国の中には、イスラエルとの対戦を避けるために競技を棄権するケースが目立っていた。なかでも、イスラエルを国家と認めていないイランは、政府自らボイコットを強要するなど、完全に政治がスポーツに介入している状況が続いています」(同)
もちろん、それはロシアとウクライナも同様で、今大会には140人のウクライナ選手に対し、ロシア選手も15人参加するが、ウクライナは今年5月、自国の選手に対し、ロシア人との接触を避けて可能な限り「挑発的な行動」を予防すべきとの勧告案を出し、インタビューもロシア選手とは同席せず、表彰式での写真撮影を避けるよう措置が取られているという。
「IOCは今回、ロシアとロシアを支援してきたベラルーシの選手の五輪参加を認めず、侵攻を支持しないという立場を表明した中立選手のみ、出場を許可するという方針をとっています。さらに、一部のロシア記者の取材証発行も拒否していますが、いかに規制を厳しくしても、ロシア側のスパイが紛れ込んでいないという保証はない。とにかく何事もなく閉幕まで行けることを祈るばかりです」(同)
今回のパリ大会でも、「平和の祭典」の意義が改めて問われることは間違いない。
(灯倫太郎)