2037年「品川―大阪」リニア全線開通のカギを握る“静岡空港の評判”

 毎年6月に策定され、政権の重要課題や来年度予算の方向性を示す「骨太の方針」の原案が6月11日に公表された。そこにはデフレ脱却の構造的賃上げなどが示されているが、リニア新幹線にも言及。品川―名古屋間の「27年開業」は既に断念されているが、品川―大阪間の全線開業を「最速令和19年(2037年)」という当初の予定を堅持し、国がJR東海を支援するとしている。

 言うまでもなくリニア新幹線は静岡県の川勝平太知事が「水の問題」で大反対して大きなブレーキとなっていたが、その静岡県知事も5月26日の選挙で、「リニア推進」を訴えていた鈴木康友氏が当選。推進で大きな場面展開を迎えたのは確かだ。

「鈴木知事はさっそく6月5日に、JR東海の丹羽俊介社長と面会しました。川勝知事との違いもあったのでしょう、面会後の丹羽社長は『大変有意義な面会』と上機嫌でした。また7日には沿線自治体トップらによる『建設促進期成同盟会』の東京で開催された総会にも参加。鈴木知事は早期の開業に向けての意気込みを語りました」(全国紙記者)

 とはいえ、鈴木知事も川勝知事時代の「環境保全」の旗は降ろしていない。だが川勝前知事のような立て板に水感は全くなく、そこは今後詰めるしかないだろう。

 一方で、丹羽社長との面談、期成同盟会の総会でも議題として上がったのが、東海道新幹線の新駅を作ること。リニア新幹線では静岡県は完全スルーとなっているが、それを覆して「新駅」を置くか否かが落としどころとして大きな鍵となりそうだ。

「リニア新幹線は、住所的には牧之原市と島田市に跨る富士山静岡空港の真下を通るので、素通りする駄賃としてせめてここに駅を築いて、空港と陸路を結ばせろという要求は以前からありました。ところが、新幹線のこだまが停車する掛川駅とは16キロしか離れていないため、不合理としてJR東海としては後ろ向きでした。ところが開通に漕ぎつけるための交換条件として、新駅の建設論が大きく再浮上しつつあるというわけです」(同)

 だがこの静岡空港、地元での評判が芳しくない。主要駅からの車のアクセスだと、最短が静岡駅の40分で、浜松が50分、沼津からだと1時間20分もかかる。さらに少し西に行けば、愛知県の中部国際空港のセントレアがあるので、実質はこの沼津―浜松間の周縁辺りまでしかカバーしていない。また、リニア新幹線が静岡に停まらないのと同じ理由で、東京や大阪は近すぎて発着便がない。国際線も、コロナ禍後にソウル、上海は回復したものの、開業15周年を迎えて利用者は伸び悩み、コロナ前の19年度の利用者が70万人以上だったのに対し、23年度は50万人を超えたところで留まっている。

 実際にSNSでは、「便数が少なく発着時間も中途半端」、「もともと利便性が悪いところに、新駅で更なる投資となってもムダ使いが増えるだけ」といった声も。

 静岡県知事選挙では、全県では対抗馬に票が集まったが、浜松市を中心とした西側の得票で鈴木氏が勝利したため「浜松県知事」などと言われ、横に長い静岡県の東西対立がクローズアップされた。そこに新駅建設となれば、これはこれでまた新たな投資を巡る是非で県内が割れ、新たな分断の種となりそうだ。

(猫間滋)

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