今回は脅しだけではなかったようだ。
韓国の脱北者団体によるビラ投下への報復措置として「汚物風船」をばらまく、と宣言していた北朝鮮が5月29日、その公約通り糞尿の入った風船を韓国に向けて飛ばした。さらに同日付の朝鮮中央通信が、金正恩総書記の妹・与正氏が談話を発表。汚物を「誠意の贈り物」として、「自らのビラ散布は『表現の自由』と言い、我々には『国際法違反』と言う。我々は今後、韓国の数十倍で対応する」と、さらなる散布を宣言した。
韓国の合同参謀本部によれば、北朝鮮の「汚物風船」が、京畿や江原、慶尚、全羅などで観測されたのは28日夜から翌29日にかけて。
「その数は全国各地で260個余りとされ、飛んできた風船には汚物や紙くず、糞尿などが入った袋がつけられていました。また、風船とビニール袋を繋ぐ紐にタイマーのような起爆装置がついているものもあり、一定の時間が経過すると爆発する仕組みになっていたようです。地上に落下した風船は、軍の化学兵器迅速対応チームと爆発物処理班が回収、中身については関連機関で分析中だということです」(北朝鮮ウォッチャー)
北朝鮮が韓国に対し風船による汚物散布を行ったのは、今回が初めてではない。2016年、朴槿恵政権下でも大規模な「汚物風船」騒ぎがあったという。
「当時、日本の全国紙が、正恩氏を朴政権が指導者の地位から引きずり下ろすべく画策している、という記事を掲載したのですが、これに激怒した正恩氏が大量の汚物風船を飛ばしたことがあるんです。この時は風向きなどの影響で、風船が軍事境界線近くから50キロ以上離れたソウル南方の都市まで飛来し、住宅や自動車に多くの被害が出たとされます。正恩氏の朴前大統領嫌いはよく知られる話ですが、その際の汚物風船には、朴前大統領を『汚物』『老いぼれ魔女には死刑宣告を』などと誹謗したビラも入っていたようです」(同)
聞けば、韓国と北朝鮮とのビラ散布合戦の歴史は古く、1950年に勃発した朝鮮戦争に遡るそうで、当時散布されたビラはなんと10億枚にも及び、そんなことから「ビラ戦争」とも呼ばれていたのだとか。
「この時期に散布されたビラの大半は、相手国を誹謗中傷するものですが、なかには郷愁を誘うものもあり、これは母国を離れて戦う兵士たちの士気をそぐ目的で使われていたようです。ただ、時を経るにつれビラの内容も変化し、60~70年代にかけては、自国の優位さをアピールするものに変わり、80年代に入ると、韓国政府が水着姿の美女の写真を印刷したビラを散布。北朝鮮兵士に脱北を促したという話もあります」(同)
それが、時を経た今、なんと糞尿が入った「汚物風船」として再びばら撒かれることになろうとは…。与正氏は談話で、「『誠意の贈り物』として拾い集めろ!今後も数十倍で対応する」と息まいているが、はたしてこの風船合戦の行方は。
(灯倫太郎)