北朝鮮は「反動思想文化排撃法」を2020年に制定し、例えば、韓国のドラマを視聴しただけで最長で懲役15年の刑となり、さらにそれを広めた場合、最高で死刑となる。ところが、そんな北朝鮮が製作したビデオを巡って、ある珍事が起こっている。
4月16日、首都・平壌の和盛地区で、1万世帯規模のニュータウンが完成した。竣工式の式典では金正恩総書記がテープカットをするなど、終始和やかな雰囲気だった。翌日にはその様子を国営の朝鮮中央テレビが放送したのだが、その際に同時公開されたミュージックビデオが世界に拡散し、海外の若者たちに大ウケだというのである。
「『優しい父母』と題されたこのMVは、ひと言でいえば、正恩氏を讃えるプロバガンダビデオ。そのため、『偉大な指導者、金正恩を歌おう。優しい父・金正恩を自慢しよう』といった歌詞が多用され、映像に出てくる歌詞テロップ部分に赤文字を入れて強調するという念の入れようです。しかも、親しみやすさを強調するためなのか、正恩氏をあえて『金・正・恩』と、呼び捨てするようなフレーズになっているんです。これは異例中の異例と言えるでしょう」(北朝鮮ウォッチャー)
このMVのBGMとして流れるのは、70年代に一世を風靡したスウェーデンのポップグループ「ABBA」風のアップテンポな曲。内容も、軍人や労働者、さらには女子アナらが代わる代わる登場し、揃ってサムズアップを決め、そこに正恩氏の動画や静止画、後継者とされる愛娘との視察シーンなどがふんだんに盛り込まれている。
こうした、「北朝鮮らしくない」曲と中身が海外の若者たちの琴線に触れたのか、SNSでの投稿が相次いだのだ。
「このMVはあくまでも国内向けに作ったもの。にもかかわらず、まるで韓国で製作されたようなプロモーションビデオになっているんです。韓国のテレビ番組や音楽を批判し、視聴を禁止しておきながら、その手法を丸パクリしている。そんな本音と建前が交錯しているような国の姿が、海外の若者にウケたのかもしれません」(前出・ウォッチャー)
彼らはSNS上で、《映像も曲も最高!北朝鮮ってヤバい!》《このPV完璧だね、北朝鮮に行きたくなった!》《こりゃ、グラミー賞もんだ!》と大いに盛り上がっている。
こうした反響が北朝鮮の狙いだったのかは不明だが、中には100万回以上再生された動画もあり、今も多くの若者に視聴されているのである。
(灯倫太郎)