永江朗「ベストセラーを読み解く」性暴力問題について言及なし 放送作家が描くSMAP物語

 本書はSMAPの誕生から解散までを描いた長編小説である。ただし作中にはSMAPという4文字もジャニーズ事務所という名称も出てこない。メンバー名は、タクヤ、ゴロウチャン、ツヨシ、シンゴ、リーダーと表記される。あくまで事実に基づいたフィクションということなのだろう。

 筆者はテレビを所有しておらず、アイドルについてほとんど知識がない。でもSMAPのメンバーと顔は知っている。すごいことだと思う。SMAP以外のグループ、例えばTOKIOのメンバー全員の名前をあげる自信はない。

 基本的にいい話である。SMAPが主人公なので、彼らについてネガティブな話はほとんど出てこない。

「メンバー全員すごいヤツらだ」という印象を持つように書かれている。

 SMAPは逆境の中でデビューした。80年代の終わりから90年代前半はバンドブームだった。アイドルは時代遅れのかっこ悪いものだった。だからジャニーズ事務所は(あるいはマネージャーのイイジマサンは)、アイドル全盛時代のタレントとは違うやりかたで彼らを売り出さなければならなかった。歌って踊れるだけではだめなので、バラエティー番組でお笑い芸人のようなこともした。結果的にこれがSMAPを強くした。

 小説なので、ストーリーは山あり谷ありである。大きな危機のひとつは、メンバーのひとり、モリクンの脱退である。バラエティー番組「SMAP×SMAP」が始まり、人気が急上昇していくタイミングでの脱退。モリクンはオートレーサーに転身する。

 筆者は脱退に関する記者会見におけるリーダーの巧みな捌きに感心した。なぜSMAPのリーダーが木村ではなく中居なのかがよくわかる(といっても、これは小説なのだが)。一瞬で空気をつかみ、記者たちを自分のペースに巻き込んでしまう。実は、SMAPに限らず、ジャニーズ事務所(って今はもういわないのか)のアイドルがすごいところは、歌や踊りではなく、こうした反射神経だ。

 もうひとつの危機はタクヤの結婚だった。恋人の妊娠と結婚が、スポーツ紙にすっぱ抜かれる。アイドルだから恋愛も結婚もタブーだという時代ではないが、それでもメディア対応とファン対応を間違えると命取りである。タクヤとリーダーはピンチをみごとにチャンスに変える。

 しかし、小説として読むと、SMAP解散を描いた最終部分は弱い。誰も悪者にせず、いい話にしようとした作者の苦労が伝わる。なぜ、ゴロウチャンとツヨシとシンゴがジャニーズ事務所を出てイイジマサンと新会社を設立したのか、なぜ、タクヤとリーダーはジャニーズ事務所に残ったのかは書かれていない。

 そして、ジャニー喜多川による性暴力問題についても。書かないことによって「ドロドロした事情があるのだろうな」と、読者の想像力をかき立てる。もしかして、それが狙いだったりして。

《「もう明日が待っている」鈴木おさむ・著/1980円(文藝春秋)》

永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。

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