スパイが身分を偽るのは今に始まったことではないにしても、昨今の中国は実に〝巧妙〟なようだ。何せ国家主席まで加担している疑惑が浮上しているのだから‥‥。インテリジェンス最前線からの報告である。
事が明らかになったきっかけは、公安関係者のこんな一言だった。
「中国がカンボジアを利用し始めた」
独裁色を強めるカンボジアと中国が近年、近しい関係にあるのは承知していた。が、具体的にどう利用しているのかを問うと、公安関係者は「中国人工作員にカンボジア国籍を取得させた上で、世界各国に派遣している」と言うのだ。
さらに質問を重ねていくと、「世界各国」には日本も含まれており、実際に派遣された事例があることが明らかにされた。
「23年に外国人住民として登録された中長期滞在者のAという人物がいる。彼はカンボジア国籍を取得後、日本に派遣されたエージェントだ。現在は情報通信にかかわる事業を展開する企業の社員となっているが、この会社の代表者Bが上級工作員であり、その上司。そもそもBは、本国からの指令を中国系大手企業経由で受け、NTTの最新技術を窃取する目的で同社の施設管理などを行っているNTT関連会社と取引を開始したものの、米国の警告によりNTT側が解除したといういわくつきの人物だ。そのBから指示を受け、Aは新たな工作を開始した。まだNTTを諦めていないと見られる」(公安関係者)
また、Aには別の顔もあるという。太陽光発電など新エネルギー事業などにかかわる会社を設立し、その代表に収まっているのだ。この点について、公安関係者はこう解説する。
「日本の太陽光発電事業に浸透しつつある中国が、さらなる事業の拡大を狙ってのこと。とりわけ力を入れているのは、政府や公官庁への太陽光発電による電力の供給だ。送電システムなどを利用して機密を入手しようという工作の一環と見られている」
なお、同関係者によると、この会社の〝任務〟の中には、反政府的な在外中国人に対応する警察機能ーーいわゆる「海外警察」も含まれているというのだ。来日以前、Aがシンガポールをはじめとする複数の海外警察に関与していたというのが、その傍証だという。
海外警察といえば、今年2月、日本の拠点とされた団体の女性幹部2人が警視庁公安部に詐欺容疑で書類送検されたことで注目を集めた。が、そもそも問題が露見したのは22年のこと。スペインに本部を置く人権監視団体が「海外110番・中国の国境を越えた警察の暴走」と題した報告書を発表したことに端を発した。同報告書によると、中国・福建省と浙江省の公安局が、欧米を中心に21カ国54カ所にも及ぶ「海外警察サービスセンター」を設置しているという。今回、摘発された団体も、この報告書で海外警察の拠点と指摘されていた。
問題の団体は「一般社団法人日本福州十邑社団聯合総会」(以下、聯合総会)。18年に前身団体が設立され、20年に現在の名称に変更されている。団体名にあるように、本来は日本在住の福建省出身者のための団体であるが、そのネットワークを海外警察機能に利用していたということのようだ。
時任兼作(ジャーナリスト)
(つづく)