中国が最大の経済的試練に直面している。鄧小平が改革開放という「大改革」を始めて以来のことだ。
この難局に、習近平国家主席は再構築のテコ入れをすべく、従来の先端科学技術を一段と強化した「技術大国化」、毛沢東返りを思わせる「中央集権的計画経済」への回帰、さらに軍事力を武器に世界の産業の支配を狙うが、果たしてこうした野望は実現できるのか。結論から言うと、それには無理がある。3つの間違いがあるからだ。
最大の間違いは、習近平政府は「消費者」を軽視していることだ。中国経済に不動産が占める比率はGDPの約37%。不動産不況の中で景気回復を起こすには景気刺激を行って消費者心理を改善することが基本だ。が、政府は貯蓄を最優先している国民に社会保障や医療サービス、老後の保障などを打ち出し、消費に向かわせる手を打たない。「安心」できる社会が見通せなければ、国民はカネを使わないで、貯蓄を優先するのは当然だ。繰り返すが、習近平政府は消費喚起に消極的なのだ。
2つ目の間違いは、国内消費の不足を、輸出で補おうとしている点。世界は今、中国が世界に輸出しまくった2000年代のような自由貿易体制は過去のものになっている。米・トランプ元大統領が、中国が知的財産権を侵害していることを理由に中国商品の輸入に関税をかけたのをきっかけに、民主主義体制側が一斉に厳しく対応したばかりか、政治、外交、安全保障を含め独裁政権国家と相容れなくなった。
それを象徴するのがEV(電気自動車)だ。自動車発祥の米国をはじめ自動車を国家の主要産業に育てたドイツ、フランスなど欧州が中国製のEVに自国メーカーが駆逐されることを恐れ、パニックに陥ったほどだ。つまり、自国の繁栄のみを重要視し、相手の事情にお構いなく輸出攻勢をかければ反発を買い、最悪は敵対関係に至る。
資本主義国家の場合は、民間企業が調整能力をもっているため問題が起こっても回避することが可能だ。しかし独裁の中国では、問題が習主席に届いた時点で、多くが最悪の事態になっている。しかもその習主席は「裸の王様」だから適格な判断が難しい。
さらに、3つ目の誤りだ。改革開放後、中国経済を支えてきたのは、およそ5000~8000万社あると言われる無名の中小零細企業。ところが、中国政府は国家政策に大企業と国有企業を重んじ、それ以外に対しては気まぐれに規則を改廃し、大きく成長する道を塞いできた。
明らかな問題があるにもかかわらず中国が方向転換をできないのは、習主席が「聞く」耳を持たないからである。中国の復活は簡単ではない。
(団勇人・ジャーナリスト)