2016年にキューバの首都・ハバナ駐在の米中央情報局(CIA)職員が突然調不良を訴え、その後、世界各地で活動するCIA職員らも頭痛や耳鳴り、脳損傷に悩まされ続けてきた「ハバナ症候群」を巡る謎の事件。
前トランプ政権時代から、この事件にはロシアが何らかの形で関与しているのではないかとの噂があり、バイデン政権下でも政府の対応が不十分との批判を払拭するため、真相究明に「あらゆる資源を投入する」と表明しているが、いまだ真相は薮の中だ。
そんな中、ロシアの独立系メディア「ザ・インサイダー」が4月1日、「ハバナ症候群」は、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)による「音響兵器」攻撃の可能性が高いと報じ波紋が広がっている。外報部記者が語る。
「インサイダーはラトビアに拠点を置くメディアで、『ハバナ症候群』の最初の事例とされる14年の独フランクフルトでの米外交官とその家族の突発性頭痛や嘔吐、さらには、2021年にジョージアで発生した同様の事例の際にも、現場でGRUの特殊部隊『29155』の工作員が目撃されていたというんです」
インサイダーによれば、この工作員らは本国で「ある音響兵器」開発で異例の昇進を遂げたといい、それがマイクロ波と超音波を発信することで、脳細胞を損傷させ平衡感覚に障害を誘発させる音響兵器であった可能性が高いという。
「報道が事実なら、昨年3月に米国家情報長官室が発表した『外国の敵対勢力が関与している可能性は非常に低い』という調査結果が覆されることになる。タス通信によると、この報道に対しロシア政府のペスコフ大統領報道官は1日、『メディアによる根拠のない中傷だ』と切って捨てたようですが、米国家情報長官室ではメンツにかけても全容解明に向け調査に乗り出すことになるはずです」(同)
ロシアの諜報機関は、GRUと対外情報庁(SVR)、ロシア連邦保安局(FSB)の3つ。これらの頂点に立つのがFSBだが、「汚れ役」としてハイリスクな仕事を引き受けているのがGRUだとされる。そんな中、今回報道で名前が挙がった「29155」という特殊部隊はGRUの中でも、汚れ仕事専門。目的のためなら手段は選ず、極「殺しの集団」と言われている。
「『29155』の名前が初めてクローズアップされたのは、2018年3月に起きたスクリパリ暗殺未遂事件。2人のロシア人男性が英ソールズベリーにある元ロシア人スパイ、スクリパリの自宅玄関のドアノブに神経剤ノビチョクを塗布。これを触ったスクリパリと娘が一時意識不明の重体に陥ったという事件です。その際、英当局により発表された男たちの素性が、この『29155』所属隊員だったというわけなんです」(同)
その後もモンテネグロでのクーデター未遂や、アフガニスタンの武装勢力に金を渡し、現地にいるアメリカ兵殺害を依頼するなど、相当数の極悪犯罪にかかわっていることが判明している。
「そんな連中ですから『ハバナ症候群』に関わっていたとしても何ら不思議ではないものの、今回の目的はおそらくCIAを混乱させること。そのため職員殺害までは至らなかったのでしょうが、米政府も指をくわえて黙っているはずもない。米ロによる水面下での攻防戦が繰り広げられることは間違いありませんね」(同)
GRU対CIA。両者の終わりの見えない「仁義なき戦い」は、まだまだ続きそうだ。
(灯倫太郎)