植物状態のリスクも…米国で初執行された「窒素ガス刑」の残酷度

 国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によれば、国際社会では今、多くの国々で死刑が廃止される方向にあり、廃止ないしは10年以上執行がない、事実上廃止している国を加えると、その数は140カ国以上に及ぶとされる。

 現在、先進38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の中で、死刑執行が行われているのは、米国と日本だけだが、そんな米国で25日、初の窒素吸入による死刑執行が行われたとして、世界に波紋が広がっている。通信社の記者が説明する。

「今回、窒素ガスを吸入させるという全米初の方法で、死刑を執行したのは、米南部アラバマ州。死刑が執行されたのは、1988年の女性殺害事件で有罪判決を受けた58歳の男性死刑囚です。借金まみれだった男は、当時伝道師の妻(当時45歳)を、保険金目当てで、もう1人の男と共謀し自宅で殺害。強盗による犯行と見せかけたとし、翌89年に有罪判決を受けていました。共犯の男は2010年に死刑が執行され、男も2022年11月、薬物注射での死刑執行が行われたものの、執行令状の期限だった午前零時までに血管を浮き上がらせることができなかったため、未執行に終わっていたといいます」

 その後、州当局は窒素ガスを用いての死刑再執行を決定。だが、男側は「窒素ガス吸入という方法は、残酷で異常な刑罰を禁じた合衆国憲法修正第8条に違反する」として、連邦最高裁に差し止めを求め提訴。しかし、今月に入り連邦判事が州によるこの死刑執行を認めたため、結果執行が避けられない状況になったというわけだ。

「現在、アメリカで死刑執行の方法として窒素吸入による低酸素症の誘発を認めているのは3州だけで、その一つがアラバマなんです。ただ、国際社会で死刑廃止が議論される中、死刑囚を担架に拘束して、窒素ガスを吸わせて酸欠にするというのは、ある意味、銃殺や電気椅子以上に残酷との声もあり、国連の人権高等弁務官も停止するよう求めていたのですが…。結局、それも無視される形で今回の執行が行われてしまったというわけです」(同)

 米NPO「死刑情報センター」によれば、高重度窒素ガスによる死刑執行は世界でも初めてだとされ、この方法が敬遠されてきたのは人道的な問題のほか、死刑囚が死に至らずに植物状態になる懸念があり、医療専門家からも非難の声が寄せられてきたからだとされる。

 今回、同州アトモアのホルマン矯正施設(刑務所)で行われた執行には、5人のメディア関係者が立ち会ったが、男は「アラバマは今夜、人間性を一歩後退させる」、「私を支えてくれてありがとう。みなさんを愛している」と微笑んだ後、2~4分間、激しく身をよじらせ、5分ほど荒い呼吸が続き死に至ったのだとか。

 記者の1人はニューヨーク・タイムズ紙の取材に「アラバマで死刑の執行に立ち会ったのは5回目だが、これほど激しい反応は見たのは初めてだった」と、その断末魔に驚愕したと語っている。連邦最高裁のリベラル派判事は、最高裁が示した判断に対し「1度目にスミスを死に損ねさせたアラバマは、これまで一度も試されたことのない死刑執行法を試す『モルモット』に彼を選んだ」と批判したが、今回の死刑方法に世界の死刑反対団体から非難の声が上がっている。

(灯倫太郎)

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