いよいよ消費増税まで1カ月を切った。今度の増税では、軽減税率制度が導入されて複数税率が課されることになる。われわれ一般消費者にとっては分かりにくいうえ、対応が迫られる小売業者などからは、早くも混乱の声が上がっている。
さて、そんな現場レベルではハタ迷惑な消費増税だが、商売を行えばその分だけ損が積み上がってしまう取引も存在する。
「消費税は『消費税のかかる売上』に対して、支払った額と受け取った額の多寡で納税と還付が行われ、最終的に10%という定められた金額の納税が調整される仕組みになっているんですが、取引の中には消費税が課されない非課税取引があるのです」(経済ジャーナリスト)
その非課税取引には、
①消費が予定されずに消費税という性格になじまない取引
②政策上、課税することが適当でないとされる取引
の2種類があり、問題は②の消費が予定されるにもかかわらず、課税が適当でないものだという。仕入れなどに消費税がかかっているにもかかわらず、売上時は非課税なので消費税を受け取ることもできなければ、後の還付も受けられない。だから、取引をした分だけ損になるというのだ。
「例えば医療がそうです。医療機器や注射器の仕入れには消費税がかかりますが、診療報酬は課税が適当でないとされているため、消費税がかからない。同じ理由は薬剤にも当てはまって、医療用医薬品には消費税がかかりますが、調剤は診療報酬に当たるので消費税がかからない。したがって、大病院などの経営はその分だけ圧迫されることになるんです」(同前)
生損保の業界もしわ寄せを食うという。保険料の受け取りには消費税がかからない。一方で、保険料の支払いが消費増税とともに値上がりするのは、保険会社が代理店に支払う手数料が消費増税分だけ増えてそれが転嫁されるからだ。「見えない消費税」と呼ばれ、業界からは見直しの声が上がっている。
賃貸アパートの経営も注意が必要だ。事務所の家賃などには消費税がかかるが、住居用にはかからない。だから、リフォームなどでかかる費用が増す一方、家賃は据え置きで結果、オーナーサイドは損をすることになる。ただ不動産取引については、土地は譲渡・貸付ともに非課税で、住宅と住宅以外の建物の賃貸は住宅の貸付だけが非課税それ以外の譲渡・貸付は課税されるので少し複雑になっている。
これ以外の非課税取引には、介護保険、助産、火葬・埋葬、各種学校の授業料などがある。
一方で、輸出産業は得をするという。
「輸出は、国内の消費税が輸出取引に影響を与えるのを防いだり、国際競争力を維持するために消費税は免除されています。ところが、輸出免税は税の区分としては課税売上に属するので、実質的には“0%の課税”がされている『課税売上扱い』となっているんです。従って、消費税を受け取ることはできませんが、仕入れにかかった消費税の還付を受けることができるんです」(同前)
仕入れにかかった10%が還付されるだけだから、実質的な得をしているわけではないのだが、輸出という販売の現場では消費税とは無縁の価格競争を行うことができるというのだ。
一方で、輸出を行うのはだいたいは大企業で、その大企業に商品を納入するのは中小企業だ。このことから、輸出産業は実質、得をしている一方で、中小企業から買い叩いている現実に、結局は輸出産業優遇との声も上がっている。
(猫間滋)