日本では「地方創生」が掲げられ、“消滅可能性都市”を防ごうと行政が躍起になっているが、イギリスのブレグジット問題で揺れるEU圏内でも事情は同様のようで、ヨーロッパの田舎国は生き残りに必死なようだ。
大胆な政策に打って出たのが、東欧のかつての共産主義国のポーランドだ。この8月1日から、26歳未満の若者の所得税を免除する法律が施行された。条件は、年間所得が8万5528ズロチ(約240万円)に満たない者。ポーランドの平均年収が約6万ズロチ(約170万円)なので、文字通り大盤振る舞いの決断だ。
ポーランドは15年前にEUに加盟以来、大量の頭脳流出に頭を悩ませてきた。EU圏内では、就労許可や就労ビザがなくても自由に職に就ける。それによりポーランドでは、将来ある優秀な若者がより良い労働条件の国外に働き口を求めるようになった。つまり今回の職税免除は、さらなる頭脳流出を防ぐとともに、国外に脱出してしまった若者をもう一度国内に呼び戻そうという狙いがある。モラウィエツキ首相は、この15年間で170万人がポーランドを去った過去に触れ、「これは(首都の)ワルシャワの全人口に相当する。とてつもない喪失だ」と、政策の重要性を訴えた。
ポーランドは人口約3800万人。EU加盟国ではドイツ、フランス、英国、イタリア、スペインに次ぐ規模だ。同国では1989年に共産主義体制が崩壊して以来、順調に経済成長を遂げ経済は上向き。ところがこのまま若年層の人口流出が進めば、長期的な人口動態上のリスクが生じるとともに、短期的な労働力不足をまぬがれない。経済成長の足かせとなりかねないのだ。
国と地方自治体と規模は違えど、日本が直面している地域間格差と全く同じ問題が、EU圏内ではヨーロッパの広域にわたって起こっている。
少子高齢化も事情は同じで、3800万人の人口のうち、労働人口は1600万人に過ぎない。若者が簡単に国を出てしまう分、日本より事は深刻かもしれない。2004年のEU加盟以来、約100万人の若者がイギリスに渡ったとされている。
2030年までには400万〜500万人の人手が足りなくなる見通しの中、代わりはやはり、外国人労働者で埋めてきた。ベラルーシやウクライナからの近隣諸国から労働者を受け入れ、特にウクライナ人は既に100万人が国内にいるとされる。それでも足りなくて、7月にはフィリピンから労働者を受け入れるべく、政府間協議に入った。遠く離れた国ながら、同じカトリック教国なので親和性は高いというわけだ。
事は他のヨーロッパ諸国でも同様で、ハンガリーは子育て政策に巨額の予算を割いている。7月に家族支援の新たな補助金制度を開始したのだが、無利子・使途自由で約360万円の融資を受けられ、3人目の子供ができたら返済はチャラになるという。この大盤振る舞いに、1カ月で数千万世帯が申請したとされる。
他にも人口流出に頭を悩ませている国は多い。リトアニアの場合、1992年の約370万人の人口ピークから2016年には288万人まで減少し、四半世紀の間で22%もの人口が減少した。ルーマニアでは、出生率が1.6と少子高齢化が進んで若者の流出も相次ぎ、この30年間で2300万人から1960万人と、300万人以上がいなくなった。クロアチアでもポーランドと同様の政策が検討されているといい、他にポーランドやハンガリーのような“大鉈”を振るう国が出て来るかもしれない。
だが、ポーランドとハンガリーでは10月にそれぞれ総選挙と地方選挙を控えており、早々にバラマキ政策の是非が問われるかもしれない。
(猫間滋)