イスラエルが命を狙うハマスの最高司令官は眼球、片腕、片足を失いながら7度の暗殺を潜り抜けた不死身の男だった

 いよいよ、イスラエル軍による地上戦が始まるのだろうか。17日午後、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの病院が空爆された。イスラエル軍は攻撃を否定しているが、500人以上の死者が出たと報じられた。

 そんな中、俄然注目されているのが、7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた首謀者で、ハマスのアル・カッサム軍事旅団を率いるとされる、ムハンマド・デイフ最高司令官の動向だ。イスラエルへの大規模攻撃の際、録音演説で「今日、アルアクサの怒り、人民と国家の怒りが爆発する。我らがムジャヒディン(イスラム戦士)たちよ、今日はこの犯罪者に、その時代が終わったと思い知らせる日だ」と檄を飛ばした。

「デイフはハマスの軍事部門における最重要人物であると同時に、パレスチナの抵抗の象徴として、パレスチナ人の間で絶大な人気を誇る人物。『デイフ=客人』の意味があり、居場所を頻繁に変えているため、イスラエル側も長年、その消息を掴めていないのが実情。逆にそれが、彼を神格化させる要因になっているようです」(軍事アナリスト)

 現在、判明しているだけでイスラエルは過去7回、デイフ氏の暗殺を試みているとされるが、すべて失敗。公の場に姿を現すことはなく、本人と思しき写真も2枚だけ。さらに、めったに発言しないことから、録音とはいえ今回の演説はかなり異例のことだったようだ。

「米メディアの報道によれば、デイフ氏は1965年頃にガザ南部のハーン・ユニス難民キャンプで生まれ、本名はムハンマド・ディアブ・イブラヒム・アルマスリ。ガザのイスラム大学で物理学や化学を学んだ後、理学士の学位を取得する一方、大学では喜劇の舞台に上がったこともあるようで、カリスマ性の演出や聴衆を魅了する演説は、そんな舞台経験から培われたのかもしれません」(同)

 報道によれば、暗殺を逃れてきたデイフ氏の身体には複数の傷があり、眼球、片腕、片足が失われているため、車いす生活を余儀なくされているとも伝えられる。

「さらに、2014年にイスラエルがガザに本格的な地上侵攻を行なった際、空爆により奥さんと3歳の娘、生後7カ月の息子を失ったのだとか。また、今回のイスラエル軍による攻撃で、実の兄など多数の親族が殺害されたとも伝えられています。イスラエル軍としては、今回の戦闘で最高責任者であるデイフらをすべて根絶やしにしようと目論んでいるようですが、肝心の本人は迷路のように張りめぐらされたガザ地区の地下トンネル内に潜んでいる可能性が高く、暗殺計画は思うように進んでいないようです」(同)

 仮に暗殺されたとしても、「9.11テロ」の首謀者で米軍に殺害されたウサマ・ビンラディンも、短期的にはアルカイダの軍事力に損害を与えたものの、支持者らには敬愛され、殉教者扱いされた歴史的事実がある。

「イスラエルは、今回のハマスによる大規模攻撃を『わが国の9.11』と呼んでおり、ハマスの地位と威信を高めることになりかねないことから、どんな手段を使ってでもデイフ暗殺を企てるでしょう。ただ、その際にはまた罪もない市民が巻き添えになるはず。悲しいかな、また多くの血が流されることは避けられそうにありません」(同)

 血で血を洗う地上戦突入のタイミングは、すぐそこに迫っている。

(灯倫太郎)

ライフ