昼過ぎから下田市付近は本格的な雨となり、日が暮れたころには、その激しさが増していた。
未明、「ゴーッ」という音とともに太陽光発電所を支える土砂が崩れ落ち、この地区にある1軒の民家を押し流した。
山の麓に住む80代の女性はこう振り返る。
「以前から雨が降ると、土砂が流れてきたんだよ。危ない場所であることは地元じゃ皆、知っていました。太陽光なんか造って大丈夫なのかなぁって。あの日の夜はちょっと異常でね。床に就くと、耳元でゴロゴロ大きな石が転がるような音がしたんですよ。怖くて寝付けなかった」
ほどなくして、「ゴーッ」という音とともに大量の土砂が流れ込み、女性の自宅は軒下まですべて土砂で埋まってしまったという。押し流された家は女性の家の1軒隣だった。その家には男性が1人で住んでいたのだが、たまたま四国に赴任していたため、難を逃れたのだという。
このメガソーラーの施工主は地元で区長を務める男性だった。ブルーシートで覆う措置を施したものの、昨年の時点で補償は進んでいないのだという。
その理由のひとつは発電所の売電権を持つ事業者が転々と代わったことも無関係ではないだろう。もともとは東京の事業者が持っていた売電権は、北海道の会社に移っている。結局、市道に流れ出た土砂は、下田市が地元の建設業者と随意契約を結んで、公費で片付けたのだという。
2021年7月3日、静岡県熱海市伊豆山。午前10時半ごろ、土石流が発生した。7回超も繰り返して地区を襲った土石流で、死者28人を出す大惨事となったことは記憶に新しい。
事故は「盛り土」の崩落が原因だった可能性が高いといわれているが、その付近に太陽光発電施設があったことから、一時、関連を指摘された。
実際、山を挟んで反対側に位置する静岡県函南(かんなみ)町では土砂災害が起きているのだ。
2019年10月12日、函南町田代にある太陽光発電施設の土砂が台風の影響で崩落したことがある。気象庁が事前に「1958年に死者・行方不明者1269人を出した狩野川台風に匹敵する規模になる」と警告を発していたにもかかわらず‥‥。
太陽光発電所自体に被害はなかったが、発電所に付設された調整池近くの法面(人工的な傾斜のこと)が崩落しているのを地元住民が発見している。倒木は発電所下の道路にまで達し、民家をかすめるように倒れていた。あわや、大災害の一歩手前だったわけだ。
*画像は崩落した太陽光発電所の造成地(下田市)
三枝玄太郎(ジャーナリスト)1991(平成3)年、産経新聞社入社。社会部などで警視庁担当、国税庁担当、東北総局次長などを歴任。 2019(令和元)年退社。以後はフリーライター。主な著書に「19歳の無念 須藤正和さんリンチ殺人事件」(角川書店)、「SDGsの不都合な真実」(共著/宝島社)など。文化人放送局で水曜日レギュラー、「Xファイル 未解決事件」に出演。YouTube「三枝玄太郎チャンネル」を配信中。