「実は難を逃れた」「死亡は偽装」噴出するプリゴジン「自家用機墜落」の謎

 はたして死亡が伝えられるのは、間違いなく本人なのか。なぜ「ワグネルの乱」から、ちょうど2ヵ月というタイミングでそれが実行されたのか。そして、それを指示したのは本当に大統領なのか……プーチン氏が哀悼の意を示してもなお謎が謎を呼ぶ、今回のプリゴジン「自家用機墜落」劇。この衝撃事件を巡り、さまざまな憶測が飛び交っている。

 ロシア非常事態省によれば、搭乗者名簿にプリゴジンの名がある自家用ジェット機が、モスクワを飛び立ちサンクトペテルブルクに向けて飛行中、墜落したのはモスクワ北西トベリ州クジェンキノ村近くの野原だとされる。

「ロシア航空当局は、プリゴジン氏と同氏の右腕であるドミトリー・ウトキン氏を含む乗客7人と乗組員3人全員の死亡が確認されたと発表しています。ただ、小型機の落下映像を見るかぎり、円を描くのではなく垂直に落ちている。専門家によれば、あの高さから真っ逆さまに落ちるとなれば、機体の損傷は想像以上に激しいだろうと。確認された遺体がどのような状況にあったかはわかりませんが、当局により、すぐに遺体が確認されたことも、疑問を生む要因になっているようです」(全国紙国際部記者)

 墜落現場近辺の住民によれば、上空で爆発音が聞こえた後、瞬く間にジェット機が墜落したとの目撃証言もあり、ロシアのメディア「バザ」は、機内に仕掛けられていた爆弾について当局が調査を開始したと報道。また他のメディアでは、ジェット機が地対空ミサイルで撃墜された可能性がある、と報じるなど情報が錯綜している。

「この件について、ワグネルに近いテレグラム・チャンネル『グレイゾーン』では、『ワグネルグループのトップで、ロシアの英雄かつ祖国の真の愛国者であるエフゲニー・プリゴジン氏が死亡した。ロシアの裏切り者のせいだ』との声明を発表。はたして、この裏切り者とは誰のことを指すのか。この文言についても、憶測が広がっています」(同)

 さらに、ロイター通信によれば、自家用ジェットはもう1機あり、墜落した機に後続してサンクトペテルブルクに向かっていたが、1機目の墜落後にモスクワに引き返し、着陸したと伝えている。そんなことから、SNS上には陰謀論が続出。23日のニューヨークタイムズによると、「実はプリゴジン氏は2機目のジェット機に搭乗していたため難を逃れた。死亡は偽装で実際には生きている」といった根拠不明な噂が広まっているという。

 死亡したのが本人かどうか、また墜落原因についても今後明らかになっていくだろうが、米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は「プーチン大統領がロシア軍司令部にプリゴジン氏の飛行機を撃墜するよう命じたのは、ほぼ間違いない」と断言。事実なら、ここへきてプーチンの報復がようやく遂行されたということになる。

 2カ月前の6月23日夜、テレビで「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だとして、犯人は必ず処罰する、と国民に約束したプーチン。しかし、プリゴジンらを粛清できないことで、求心力が一気に低下していたことも事実だ。

 今回の一報に米バイデン大統領は、「事実は知らないが驚きはない。ロシアで起こることでプーチン大統領が関与していないことはあまりないが、十分な情報がない」とコメントしているが、ともあれ、今後ワグネルはどんな動きを見せるのか。世界が注視している。

(灯倫太郎)

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