雑誌記事で仕事が激減、有名俳優が怒りの提訴「言ってないことも書かれて」

 週刊誌のスキャンダル報道に「直撃取材」はつきものだ。かたくなにノーコメントを貫く人もいれば、真摯に記者と向き合う人も…。後者の対応を取ってしまったがために、あることないこと書かれたら、芸能人だって黙っていない。アノ有名俳優が怒り心頭で名誉棄損を訴えた理由とは…。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が東京地裁前からリポートする。

 今年6月、東京地裁で行われた民事裁判に俳優が姿を現して証言台に立ちました。

 それは、原告である俳優が雑誌に適当な記事を掲載されたと出版社を訴えている民事裁判で、和解にならず原告である本人に尋問することになったからです。ちなみにその記事というのが、原告の息子さんがあるスポーツの試合中にケガをさせたというもの。スポーツにケガは付きものではないかと思いきや、ケガを負った人が「反則行為があった」と主張したことで刑事告訴をしたので、それを嗅ぎつけた週刊誌の記者が直撃取材を敢行したという流れです。

 まずは原告代理人からの質問。

原告代理人「今まで俳優・タレントとして雑誌の取材がある時、どういう流れになるのでしょうか?」

俳優「事務所もしくはマネージャーにオファーがあり、内容次第で引き受けます。そして紙媒体ですと、中身のチェックがあって発売されます」

原告代理人「記者が直撃して取材することもあるんですか?」

俳優「私はスキャンダルがなかったので今まで経験ありませんが、そういう雑誌もあると聞きます」

原告代理人「今回は?」

俳優「日課のジョギングをしてたら、雑誌名を名乗って『記者です』と。息子がスポーツの試合中にケガをさせたと。私は関係ないですから! だから関係ないと。(その時の)録音データ聴かせて下さいよ、それで分かりますから」

 細かいところは取材の時の音声データを聞けばいいじゃないかというのは正論ですが、証拠として採用されなかったので本人である原告に確認しているのだと思われます。

原告代理人「その場を立ち去ろうとは思いませんでしたか?」

俳優「私のことではないので。出るにしてもイニシャルになると思ってたので正々堂々と」

原告代理人「発売された記事を見てどう思いました?」

俳優「名誉毀損だと思いましたし、営業妨害だと思いました。息子をかばうバカ親父と思われたでしょうし、息子もさも犯罪者のように書かれてましたから。言ってないことも書かれてましたし」

原告代理人「記事のチェックは?」

俳優「全くありません」

原告代理人「仕事に影響はありましたか?」

俳優「CM、広告、ドラマ、映画…激減しました」

原告代理人「息子さんに関する記事ですけど、影響あるもんですか?」

俳優「みのもんたさん、三田佳子さん、高畑淳子さん…ま、名前を挙げるのも失礼ですけれども、以前の勢いよりは…となってますよね。世間はそう見るのでしょう」

 原告の言うことを前提にすれば、記事のゲラチェックもなく、言ってないことを掲載するとか相当ヤバい雑誌ですね。その記事によって仕事に大きな影響があったというのが原告の主張です。

 続いて、そんな雑誌側である被告代理人からの質問。

被告代理人「記事の何が違うんですか?」

俳優「そんなこと言ってませんから!」

被告代理人「“菓子折り持って行く”とは言ってない?」

俳優「はい。…って言うか、そんな細かい話じゃなく、私の名前で記事を書いてることを訴えてるんで」

被告代理人「記者から、記事にするかもと言われました?」

俳優「は?聞いてもいませんし」

被告代理人「“キチンと書いてくれ”と言ってませんか?」

俳優「こっちはイニシャルになると思ってますから。だって関係ないので」

 直撃取材のやり取りに関しては、言った言わないの繰り返し。多分、記者がいきなり話しかけての取材だろうから原告としてもハッキリと覚えてない事もあるだろうし、記者が言ったとしても小声で聞き取れなかった可能性もあるだろうし、傍聴席から真偽は分からずです。

被告代理人「息子さんから相手にケガをさせたというのは聞きました?」

俳優「はい、18針縫ったと。コンタクトスポーツでね、ケガをして相手を訴えるなんて聞いた事ないですよ! 私は昔、カメラにぶつかって20針縫ったことありますけどテレビ局を訴えませんでしたよ」

 ご自身の過去のエピソードを交えて、刑事告訴をすること自体がおかしいのではないかと提言です。最後は裁判官から。

裁判官「記事が出た後に仕事が減ったと。続いていて、更新されなかった仕事はあるんですか?」

俳優「ありません。役者ってそういう仕事じゃないんですよ、決まってる途中とか…」

裁判官「途中でキャンセルになったものは?」

俳優「ないですね。大河ドラマ出てましたけど、最後まで突っ走りました」

裁判官「最後に、一番伝えたいことは何ですか?」

俳優「こんなでっち上げを対応してたら裁判所がとんでもないことですよ!虚偽の告訴は罰して欲しいです。あと、こういうのは書かないで欲しい!」

裁判官「はい。よろしいですか?」

俳優「ホントね、緊張でほとんど喋れませんでした。無口でしたね。もう、いつでも呼んで下さい!何でも話しますから」

 と、無口では無かっただろうと法廷中からツッコミが入りそうなボケをかまして、本人尋問は終了でした。本人に取材しておいて、ウソを書くってのはダメでしょ。もちろん、原告が喋ったんだけど細かいところまで覚えてないという可能性はありますが。そこら辺をハッキリさせる為にも直撃取材した時の録音を聞きたいんだけどねぇ。まさかボイスレコーダー回さなかったとか?

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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