結果が出せないロシア軍トップのショイグ国防相に対し、プーチン大統領の怒りもいよいよ頂点に達しているようだ。そんな映像が公開されたのは19日、ウクライナで負傷した兵士に勲章を授与するため、モスクワ市内の病院を訪れた際のワンシーンだった。隣に来たプーチン氏に声をかけようとするショイグ氏。しかし、プーチン氏はそれを完全に無視するように、くるりと背を向け、目を合わせることもなかった。
「戦果があげられず、ワグネルのプリゴジン氏からは散々『脳なし』呼ばわりされてきたことで、プーチン氏の性格から考えて本来であれば、もっと早い時点でショイグ氏が詰め腹を切らされてもおかしくなかった。しかしショイグ氏は、大統領への忠誠心が政権内でも群を抜き、プーチン氏にとっては都合のいいイエスマン。さらに、プーチン氏の最大の盟友で、同氏の“金の管理と愛人の面倒を見ている”とされる大富豪ユーリー・コワルチュク氏からの信頼が厚いため、これまで更迭を免れてきたと言われています」(ロシアウォッチャー)
コワルチュク氏はロシア銀行会長で、金融だけでなく、メディアを牛耳る国内有数の実力者だが、一方では独自の反米主義的な愛国史観を掲げ、大統領に陰謀論を吹き込み、ウクライナ侵攻をけしかけた黒幕とされる人物だ。
「ショイグ氏は20日、ウクライナ軍が米国や英国から供与された兵器を使用し、クリミアを含むロシア領内を攻撃した場合、『米英が完全に紛争に巻き込まれることを意味する』と警告しています。さらには、南部ヘルソン州の水力発電所のダム決壊についても、粛清を恐れたショイグ氏が何らかの形で関わっているのではないか、という疑惑も浮上している。この情報はウクライナ側からなので、もちろん100%鵜呑みにはできませんが、ショイグ氏の尻に火がついていることは事実。可能性としては否定できません」(同)
ところが、ロシアの独立系メディアなどによれば、コワルチュク氏はショイグ氏と同様、プリゴジン氏とも関係が深く、実はプリゴジン氏を陰で操っているのはコワルチュク氏だというのだ。ロシア政界に太いパイプを持つ政治評論家タチアナ・スタノバヤ氏も「プリゴジンが大統領府との関係を築いたのは、コワルチュク兄弟という後ろ盾がいたからだ」と指摘している。
「プリゴジン氏はサンクトペテルブルクで高級レストランを経営しており、そこでプーチン氏の知遇を得たとされていますが、じつは裏では闇カジノを運営しており、闇カジノ撲滅担当だった当時同市の副市長だったプーチン氏がこれを黙認し、2人の関係が深まったとも報じられています。その後、プリゴジン氏はプーチン氏の汚れ役を一手に引き受け、その流れでコワルチュク氏にも接近。彼の汚れ仕事も担当していたようです。つまり、この3人はお互い裏も表も知り尽くした持ちつ持たれつの関係にあるということ。だからこそ、プーチン大統領も簡単にプリゴジン氏を切ることができない。そこがまた、ショイグ氏のジレンマなのかもしれません」(同)
三つ巴、四つ巴に入り組んだ複雑怪奇な人間関係。そんな権力者らに振り回されるロシア国民の思いとは…。
(灯倫太郎)