サミットが今にも始まろうとする5月19日、「次元の異なる少子化対策」として政府は年間3兆円の追加財源を想定していると報じられ、それには社会保険料に一定額を上乗せして徴収する案が有力とされた。
だから、ゼレンスキー大統領が急遽訪日したお祭りムードも月曜になると一変、いきなり世知辛いカネの話が政治報道で多数を占めるようになった。
「というのも、社会保険料の上乗せとは、ニアリーイコールで消費増税のようなものですからね。防衛費の増額では、5月23日に財源確保の法案が可決されましたが、こちらは見積もりは曖昧なままではありますが、所得税に付加税が課される方針で、消費税など新たな増税を言える状況にない。ところが少子化は広く国民が負担することが必要なので、社会保険料の上乗せという逃げ口が案として上がった。ただ、社会保険料の上乗せ負担分は給料から天引きされるので、結果、可処分所得が減って実質的には消費税率アップと同じようなものです」(経済ジャーナリスト)
サミットの成功で上向き基調だった岸田首相の支持率がまた上がったため、早期解散の観測が持ち上がっているが、この少子化対策の財源問題は、6月にまとめられる「骨太の方針」を待って中身が定まってくるので、この論議がどう向かうかで政局は変わる。
だが社会保険料の上乗せでは、加藤勝信厚労大臣が「社会保険料を少子化に使う余地はない」と牽制。では、どこに求めればいいのか?と議論になる中、今度は経団連の十倉雅和会長が出張ってきて「消費税引き上げを排除するな」と首相に“決断”のハッパをかけた。
だがこの期に及んで消費税率アップを持ち出すなど、経済のことを考えればあまりにも暴論。ただでさえ人々はインフレで実質賃金が下がっていることに不安がある中、さらに増税論など出ようものならカネの巡りは最悪になるに決まっているからだ。
だから十倉会長の発言に対してSNSには、引用するのも憚られるようなけんもほろろの書き込みが相次ぐ。確かに一般庶民からすれば、大企業の代表、つまりは上級国民の代表だからこその意見としか取れないのは当たり前だ。ところが、いったん全体を俯瞰してみれば、これらすべてが出来レースとの見方も出てくる始末で……。
「確かに岸田首相に限らず誰が首相でも、国民ウケを考えればさらなる増税は言えない。じゃあ社会保険料の上乗せで回避すればよいかと言えば、『安易な判断』との批判が上がり、当該官庁トップの厚労大臣も『そんな余地はない』と反発する。そんな流れを見て財界が『増税から逃げるな』と言えば、あたかも民間はそれも受け入れる用意があると言っているかのように聞こえる。そんな、あっちが立てばこっちが立たずという難しい状況の中、最終的に岸田首相がどんな決断をしようとも、『苦渋の決断やむなし』との雰囲気が醸成される。いかにも財務官僚が描きそうな出来レースという見方ですね」(同)
言われてみれば、過去の消費税アップでも同じような光景を目にしてきた記憶が蘇る。と考えれば、やはり早期解散へのシナリオありきのようにも見て取れないこともない。
(猫間滋)